世界的に慢性腎不全症患者は増加の一途をたどっており、我が国の患者数も1300万人に及ぶ。腎機能低下で血中濃度が上昇する尿毒症物質インドキシル硫酸(IS)が、腎機能の増悪化のみならず、動脈硬化など種々の合併症を誘導することが明らかになってきた。また、ISが細胞内で活性酸素種(ROS)を産生することでこれら作用を発揮することも分かりつつある。本研究は、食成分から慢性腎不全の改善及び血管障害の改善を目指す研究である。具体的には、ローズマリーの抗酸化化合物カルノシン酸(CA)を用い、本年度は動脈硬化の初期段階に関わる血管内皮細胞及び慢性腎不全に密接の関わる腎尿細管上皮細胞HK-2に対するISの悪影響の予防・改善効果を実証することを目的とした。 平成26年度は、まず培養血管内皮細胞を用い以下の結果を得た。① ISは細胞内のROS産生及び転写因子NFκBの活性化を介して細胞接着因子であるICAM-1、VCAM-1、E-selectin、さらには単球走化性因子MCP-1の発現を増加させ、これをCAがROS産生やNFκB活性化を抑えることで負に制御すること、② ISが細胞へ作用後、ROS産生のみならず、ROS産生酵素であるNOX4の発現、ISの作用を仲介するダイオキシン受容体AhRの発現をも増加させること、を示し、ISの慢性的な暴露が動脈硬化の発症・進展を促進するさらなる証拠を得た。HK-2細胞についても以下の結果を得た。① ISによりAhRの核移行やROS産生が生じ、それをCA、AhR拮抗薬、ISを細胞内に輸送するOATトランスポーター阻害剤が抑制すること、② ISによるNOX4発現増加もCAやトランスポーター阻害剤で抑えられること、を明らかにした。 これらの結果は、CAがISによる慢性腎不全の進展や合併症である動脈硬化の進展に対し、抑制的な効果を持ちうることを示唆するものである。
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