研究課題/領域番号 |
12F02218
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
功刀 浩 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・疾病研究第3部, 部長
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研究分担者 |
YOON Hyung Shin 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・疾病研究第3部, 外国人特別研究員
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キーワード | CART / うつ病 / 統合失調症 / 脳脊髄液 / マイクロインジェックション / 側坐核 |
研究概要 |
Cocaine and Amphetamine-regulated transcript (CART)は、薬物中毒、摂食、ストレス等、様々な生理学的作用がある内在性神経ペプチドである。先行研究によって、人の脳脊髄液の中のCARTレベルがハンチントン病のような精神疾患との関連があることが示唆されている。本研究では、うつ病や統合失調症の精神疾患を持つ患者、および健常者からの脳脊髄液を用いて、CARTペプチドのレベルをELISAによって測定し比較した。その結果、脳脊髄液におけるCARTレベルは、健常者に比べて、うつ病群では有意に減少していた。別のサンプルを用いて、さらに検討した結果、統合失調症群での脳脊髄液CARTペプチドのレベルが健常者に比べ有意に減少していることを見出した。これらの結果から、うつ病や統合失調症の発症にCARTペプチドが関わっていることが示唆された(論文準備中)。報酬とストレスに関わるうつ病発症への側坐核内CARTペプチドの役割を検討するために、通常の状態(ストレスをかけない状態)でどんな行動への効果をもつかについて検討した。側坐核内にCARTペプチドをマイクロインジェクションすると、総自発運動量又は常同運動には影響しないが、オープンフィールド試験で用量依存的に中心領域に止まる確率が増加した。この結果は、側坐核におけるCARTは、新規環境によって誘発される基底不安を調節することを示唆している。明暗箱試験でも用量依存的な不安様行動の減少が観察され、側坐核内へのCARTペプチドの抗不安様効果が明らかになった(論文投稿中)。ストレスにおけるうつ病発症過程におけるCARTの役割を明らかにするために、ストレス負荷によるラット側坐核のCART遺伝子発現量を調べた。その結果、急性ストレスによって、コンートロール群に比べてCART遺伝子発現量が上がる傾向が見られたが、慢性ストレスへの反応は個体差が大きいことが観察された。慢性ストレスにおけるCART遣伝子の発現量の個体差は、ストレスへの反応性が異なることに関する分子メカニズムを解明する手掛かりになる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
うつ病患者と統合失調症患者からの脳脊髄液からCARTペプチドレベルは計画の通りに結果が得られ、世界で初めてこれらの疾患で低下していることを見出した(論文準備中)。また、CARTペプチドのうつ病発症への役割を明らかにするため、側坐核内にCARTをマイクロインジェックションし、行動学的な解析を行い、用量依存的な抗不安様効果を世界で初めて見出した(論文投稿中)。ただし、当初予定していた遺伝子ノックダウンによる行動観察は終了していないため、今後の課題として残った。以上より、全体的には「おおむね順調に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
CARTの役割をさらに明らかにするため、当初の予定通り、遺伝子ノックダウンの行動薬理学的検討を終了したい。また、抗不安様効果が明らかになったことから、その分子メカニズムについて、採取済みのラット脳サンプルを用いて詳細な解析を続けたい。また、うつ病の動物モデルを作成し、動物の側坐核内にCARTペプチドを注入して、治療効果の有無について検討したい。この結果を基にして、ヒト脳脊髄液のCARTを用いたテーラーメイド医療を開発したい。
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