研究課題/領域番号 |
12F02303
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下田 正弘 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 教授
|
研究分担者 |
WU Juan 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 外国人特別研究員
|
キーワード | インド仏教 / ジャイナ教 / 阿闍世/クーニカ / 物語文献 / 父殺しの罪 / 救済論 / 王権 |
研究概要 |
1. 研究の目的 : 研究目的は三点ある。第一は、インド仏教における「父殺し」阿闍世王の4つの物語主題の系統的研究である。第一の主題、彼の救済については博士論文において検討した。現在の研究は主として残りの3つの主題に関わる。すなわち、阿闍世の父殺しの物語、政治的活動、仏教サンガとの関わりである。この研究のおよその目的はインドの文献における阿闍世王のさまざまな物語を翻訳して提示するに留まらず、それら物語が時代を経て異なるテクストに伝承される過程で形態と意味とを変容する実態を明かし、仏教の編纂者たちの意図を明かすことである。第二に、阿闍世は仏教とジャイナ教双方の文献において開祖であるブッダとマハーヴィーラと同時代であることが広く知られているので、この人物をめぐる特徴を仏教とジャイナ教の文献を組織的に比較して明かすことにある。第三は、これまで研究されていない阿闍世王物藷、すなわち『Ajātaśatrupitrdrohāvadāna』と『Ajātaśatruparibodhitāvadāna』の翻訳と分析である。いずれも独特の筋立てを有しており、さらに仔細な調査によって、インド仏教における阿闍世王物語の多様性が明らかになろう。 2. 実施した研究の成果 : 昨年度の研究成果は、以下三部にまとめられる。第一には、『根本説―切有部律』「衣事」とジャイナ教白衣派所伝三テクスト(Āvaśyaka-cūrņi、Haribhadra著Āvaśyaka-līkā、Hemacandra著Trişaşliśalākāpuruşacarita)の対応部分の検討を通しての、仏教とジャイナ教における、阿闍世王の復讐者としての前世と誕生の物語の比較研究の完了である。研究成果の一部は日本印度学仏教学会第六四回学術大会において口頭発表され、二部の雑誌論文として公開されている。第二には、仏教/ジャイナ教における阿闍世/クーニカとその父ビンビサーラ/シュレーニカの来世に関する研究の完了である。本研究成果は38th Spalding Symposium on Indian Religions (Oxford University)および第二八回日本ジャイナ学ワークショップ(大谷大学)で口頭発表され、二〇一四年度中に査読付き論文として公開される予定である。第三には、阿闍世に関連する最も重要な観念の一つ、「根拠なき信仰」についての研究である。研究結果は学術大会「アビダンマからアビダルマへ」 (ゲント大学仏教学センター、2013年7月)において口頭発表された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の三雑誌論文の執筆により、計画当初は昨年度中に完了する予定であった『アジャータシャトル=ピトリドローハ・アヴァダーナ』および『アジャータシャトル=パリボーディター・アヴァダーナ』の研究が、若干滞っているためであるが、これを阿闍世王物語に関する本研究計画の最終段階(2014年4月~10月)に組み込んで遂行する所存である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究計画の次段階(2014年4月~10月)では、以下三課題に取り組む。 1) 阿闍世王の政治的・軍事的活動に関する仏教およびジャイナ教資料の比較研究、研究成果を日本印度学仏教学会第六五回学術大会(2014年8月)にて口頭発表予定。 2) 上述のサンスクリット語二アヴァダーナ(『アジャータシャトル=ピトリドローハ・アヴァダーナ』および『アジャータシャトル=パリボーディター・アヴァダーナ』)の研究(翻訳および分析)。 3) モノグラフ「A Model of Both Good and Evil―Legends of Ajātaśatru's Patricide, Salvation and Kingship in Indian Buddhism」(2015年9月刊行予定)の執筆。
|