オブジェクト群の混合度を評価する最も代表的な指標の一つとして,Duncanらが1950年代半ばに提案した分離指標がある.彼等の指標は,非空間的事象に対しては大変有効であるが,空間的概念が考慮されていないことから,混合割合が等しく,空間構成のみが異なる状態を区別することができない.そのためこれまで多数の空間混合度指標が提案されてきてきているが,それぞれ算出方法,表現内容共に大きく異なる.そのため利用者は,目的に応じて適切な指標を選択する必要があるが,選択の方法は未だ明確には定まっていない.そこで本研究では,既存の乖離指標に対する統計的評価を用いて,以下の2つの問いに答えることを目的とした:1) 空間乖離指標は,多くの既存研究で用いられてきた伝統的な非空間乖離指標とどのような関係にあるのか,2) 空間乖離の評価には,どのような空間補間方法と近接度定義を選択すれば良いのか.これらの方法や定義に対して,頑健性の高い乖離指標は存在するのか. 上記の目的を,以下の3つの研究段階によって達成した.第1段階では,均質,暴露,集中,集塊という4つの典型的な乖離パターンについて,それらを表す代表的な実証データセットを収集した.第2段階ではこれらのデータについて,既存の空間乖離指標の計算と評価を行った.指標値としては,Massey & Denton (1988)の全指標,及び,Moran's Iを用いている.また,本研究の目的の一つが空間乖離指標に対する空間補間方法と近接度定義の影響評価であることから,補間方法と近接度定義についても様々なものを用いている.特に後者は,ユークリッド距離に基づく比較的単純な距離低減関数から,ネットワークK関数で用いられるネットワーク距離関数まで多岐に渡っている.第3段階では,結果として得られた指標値間の関係を考察した.主成分分析及びその他の多変量解析手法を利用して,50を超える指標同士の類似点と差異を検証した.
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