研究課題
LMXB (Low-Mass X-ray Binary) とは、弱磁場の中性子星が低質量の星と連星系をなしたもので、我々の銀河系をはじめ、銀河に含まれるX線源のもっとも代表的な種族である。「すざく」による観測により我々は、これらの系で質量降着率が減少すると、それまで幾何学的に薄く光学的に厚かった降着円盤が、幾何学的に厚く光学的に薄い高温「コロナ」となり、それが中性子星に降着するようになることを突き止めた。しかしこのコロナが中性子星を中心にほぼ球対称なのか、それとも降着赤道面に沿って扁平に広がるのか、明確ではない。そこで本研究では、dipping LMXBとそうでないLMXBの「すざく」データを詳細に比較する計画である。dipping LMXBとは、軌道周期に同期してX線の強度が急に減る「dip現象」を示す天体で、そうでないLMXBはより極に近い方角から見ていると考えてよい。両者の間でコンプトンの光学的厚みなどに有意な違いがあれば、それが即ちコロナの球対称性からのずれを反映していることになる。今年度は、「すざく」衛星の公開データを概観した結果、約5天体のdipping LMXBのデータが使えることがわかった。その中で最も光度の高い 4U 1916-05 を選び解析を行ったところ、この天体のスペクトルは、通常LMXBのスペクトルを表現するモデル(円盤の多温度黒体放射+中性子星表面からの黒体放射)で再現できるが、より強いコンプトン効果が起きていることが判明した。これは、dipping LMXBとそうでない通常LMXBは、本質的には同種の天体だが、コロナが円盤に沿って扁平なため、前者では種光子がコロナを横切る経路が長くなり、結果としてコンプトン効果が強くなると解釈できた。これは当初の目的に沿った結果である。
3: やや遅れている
当初、複数天体をまとめて解析できる見通しだったが、それらが二つの種別に分かれることが判明した。一方は「ソフト状態」、他方は「ハード状態」と呼ばれるもので、それらを同一の視点で扱うべきでないことの結論に達した。そこでソフト状態にある1番目の天体(4U 1916-05) に関する結果を論文第一報とし、残る天体を第二報とすることとした。このため研究に若干の見直し発生し、第一報の投稿および国際会議での発表を当初の予定より遅らせた。見直し後の計画は、当初H26に予定していた研究計画と融合できるため、研究期間の全体を通しての成果は、当初どおり確保できる見通しである。
ソフト状態にある 4U 1916-05 を扱った論文第1報の投稿を急ぐとともに、ハード状態にある天体の例として、「すざく」で観測された、EXO 0748-676 のデータ解析を進め、論文第2報としたい。その他にも「すざく」の公開データの中から、適切と思われる天体を選び出し、解析を進めることとしたい。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Publications of Astronomical Society of Japan
巻: 66 ページ: id.10
10.1093/pasj/pst010
Astrophysical Journal
巻: 766 ページ: id.80
10.1088/0004-637X/766/2/88