研究概要 |
出発物質のH-H,C-H,O-H,もしくはN-H結合を切り,切り取ったHを生成物に貼付ける水素移動反応は原理的に塩廃棄物を出さない.このため,環境負荷低減が要請される昨今,非常に魅力的な有機合成法である.本研究では,このような概念に基づき,光学活性な遷移金属触媒を使って,アミンと2級アルコールから光学活性アミンを得る方法(不斉N-アルキル化)を探索する.アルコールを原料として使う理由は,バイオマス由来資源として将来,大量供給することが可能になると大いに見込まれているからである.今年度は,Rh,Co,Ptを中心金属とし,四座配位子で化学修飾されたアキラルな遷移金属錯体の合成に成功した.基本的な配位子の構造としては2つのアミン(ビピリジン,もしくは1,2-ジアミンNH型)部位と2つのフォスフィン若しくは,2つのNHC(N-ヘテロサイクリックカルベン)から構成されている.これらの金属錯体は頑健な構造を有し,熱的にも安定である.これらの構造に基づき現在,光学活性な四座配位子を設計のうえ合成の準備にとりかかっている.また現在,配位子の2つのアミン部位をピリジンなどの3級のN(sp2)とするか,2級のN(sp3)Hとするかを考察している.後者をとれば光学活性部位をジアミンに導入することが可能となる.これまでの検討の結果,触媒誘導段階で2級のN(Sp3)H部位が誘導されている可能性が高いことが分かっている.フォスフィンあるいは,フォスフィンの代わりとなりうるNHC(N-ヘテロサイクリックカルベン)にキラル部位を導入する場合は、その配位子の合成に,より多段階を要するためその方法を今後とるかどうか,議論を重ねている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博士研究員Agrawal氏はH24年11月終盤で来日した.その後,みるみるうちに本国に慣れ親しみ,まだ4ヶ月ほどの滞在と研究期間を過ぎた段階だがすでに今後の不斉N-アルキル化のための遷移金属触媒の基盤骨格をなす四座配置型Rh,Co,およびPt錯体の合性に成功している.これら錯体に関わる物質特許の国内出願の発明者の一人としても名を連ねている.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた知見に基づき今後はもう少し遷移金属殻の種類の幅を広げ、アルコールを用いるアミンのN-アルキル化において高活性を提供する最適な金属殻を探り当てる。その後、光学活性な配位子で化学修飾し、それを触媒前駆体として用いる.光学活性な金属配位子としては同様に四座配位子を用いる.まず2級アルコールからの脱水素を進行させる.その結果,光学活性な金属水素錯体とケトンが形成されるが、このケトンをアミンと同一反応容器内で反応させ,ケイミンを脱水的に形成させた後,先ほど生成した光学活性な金属水素錯体がこのケチミンを不斉還元すれば,光学活性なアミンが生成する.このような一連の遷移金属錯体を多数デザインし合成した後に本不斉水素移動反応に適用し,最も有効なものを見つけ出す作業が今後の主な実験の流れとなる。
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