研究課題
鉄は,その普遍性,ならびに生体毒性と環境負荷の低さから実用触媒としての有効利用が期待されるが,精密有機合成分野への応用は立ち後れている。鉄を精密制御された分子触媒として用いるには,その多様な酸化状態,配位数およびスピン状態を緻密に制御する新たな方法論の開発が必要である。鉄を利用した高選択的な分子変換反応を開発し,精密有機合成反応へ応用することは,工業的にも,そして学術的にも,重要な課題である。本研究ではこのような背景の下,以下に示す研究成果を得た。概要を記す。1. 立体選択的なアリールC-グリコシド類の合成反応の開発鉄触媒による立体選択的なC-C結合生成反応を検討する中で,鉄触媒存在下,ハロゲン化糖と芳香族亜鉛反応剤とのカップリング反応によるアリールC-グリコシドの合成反応を見出した。従前のFriedel-Crafts型アリールC―グリコシド類の合成では困難であった,種々のハロゲン化糖の単純なアセチル保護基質への多様な芳香環の導入が可能となった。アリールC-グリコシド類は,様々な生理活性を示すだけでなく酵素による分解に対し高い安定性を有し,このため,2型糖尿病治療薬SGLT2阻害剤などの医薬品候補として注目を集めており,当初計画の副産物となる成果であるが,経済性および環境調和性に優れ,工業的にも有意性の高い新規鉄触媒反応を開発することができた。2. α-アリールプロピオン酸類の不斉合成反応の開発α-ハロプロピオン酸誘導体と芳香族化合物による鉄触媒不斉C-H官能基化反応の開発を検討した。同反応を効果的に進める条件の発見には至らなかったものの,新規の鉄触媒不斉クロスカップリング反応を見出した。触媒量の鉄と光学活性リン配位子の存在下,芳香族ホウ素反応剤などの種々の有機金属反応剤とαブロモプロピオン酸エステルが,エナンチオ選択的にカップリングすることを見出した。反応機構についての成果を報告した。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Bull. Chem. Soc. Jpn.
巻: 88 ページ: 410-418
10.1246/bcsj.20140376