研究概要 |
潮汐による流況変化が激しい感潮河川の流動場と塩分場の同時連続観測システムの構築を目指し, 昨年度製作した4台に加えてさらに4台の河川音響トモグラフィー装置(FATS)を4台製作し, 計8台で現地実験を行った. 潮汐により周期的に塩水楔が遡上し, 流速場と塩分場が時々刻々と変化する太田川放水路の両岸に4個ずつのトランスデューサーを配置し, 計測領域を覆うように16本の音線を形成した. 流れ関数を利用したインバース解析プログラムを作成し, 各音線に沿って得られた断面平均流速と音速から時々刻々と変化する流速場と塩分場の推定を試みた. 具体的な実験の内容と主な結果は, 以下の通りである. 1. FATSの最も長い音線に沿ってAnCPを移動させて, 流速の断面平均流速分布を45分間隔で潮汐一周期間計測した. 計測地点(水路幅120m)の260m上流にある祇園水門の通水断面が右岸側の32m×0.3mだけに限られていたため, 流速分布は非常に複雑でその空間スケールはインバース解析の空間分解能より小さく, インバース解析で得られた流速場は信頼性に欠けるものであった. また, 流速場の時間的な変化が激しすぎて, 移動ADCPの計測結果との比較も困難であった. 2. 上述したように, 祇園水門のために, CTD計測で明らかになった塩分場の水平分布のスケールは小さく, 16本の音線で得られる約38mの計測領域の空間分解能では良好な結果は得られなかった. また, 計測地点では流速が小さいため, 強い塩分成層が現れる時間帯があり, トランスデューサーが塩水懊の上に位置する場合には, 音波が塩水楔の中に侵入できず, 横断面全体を通過できないことも, 塩分の水平分布を計測する上で大きな障害であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験地点が, 開度が横断方向に異なっている水門のすぐ下流部であったため, 流速場と塩分場の空間スケールが小さすぎ, 計測面積と音線数で決まるインバース解析の空間分解能が不十分であったことが, 計画より遅れている原因である.
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今後の研究の推進方策 |
8台のFATSとインバース解析プログラムは完成しているので, 今後は, 流速場と塩分場の分布が比較的単純で, 16本の音線で解像できる空間スケールを持つ河口に近い地点を計測対象として, 8台のFATSによる音響トモグラフィー実験を実施し, 時々刻々と変化する流速場と塩分場を連続計測し, 目標を達成する.
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