研究概要 |
バナジウム酸化物は,基礎から応用に至るまで興味ある物質である.多くの研究がなされているにも関わらず,その構造と特性の関連性には不明な点が多い.申請者は,近年合成された準安定なビックスバイト型バナジウム(III)酸化物について詳細な第一原理計算を行った.その結果にもとづき,この物質が,常磁性から傾斜反強磁性,またはスピングラス転移を起こす可能性を見出した.この酸化物は,550℃でコランダム型に相転移する準安定相である.第一原理計算の結果,コランダム型よりも絶対零度で0.1eVエネルギーが高いものの,フォノンモードに対しては動的安定であることを解明した. 本研究では,申請者がこれまでドイツ国において実施した上記の研究の延長線上として,バナジウム酸化物V305の電子状態と構造探求の研究を進めている.この化合物では,3価と4価のバナジウムが共存し,その電荷整列と,それに伴う構造変化が,ファーウェイ転移として知られている金属絶縁体転移に於いて重要と考えられている.これは,ほかのバナジウム酸化物で,磁気整列が金属絶縁体転移とともに生じることと大きく様相を異にする.しかし,その詳細については,これまでの研究では,第一原理計算レベルで解析した例はない. このような理論的検討には,バナジウムの3d電子が関係する電子相関を,定量的に精確に採り入れた上で,フォノン計算などの系統的第一原理計算を行う必要がある,この様な計算は,世界中でほとんど実施されていない高度なものである. 初年度は,まず電子相関を適切に採り入れる手法を検討し,計算精度と計算結果の任意性,計算時間について系統的に調べた.また,第一原理計算手法について,平面波基底PAW法と,全電子法の比較検討も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
バナジウム酸化物V305の電子状態と構造探求の研究に関する理論的検討を行うにあたり,3d電子が関係する電子相関を適切に採り入れる手法として,GGA+U法の適用を検討したほか,ハイブリッド汎関数法による計算も実施し,計算精度と計算結果の任意性,計算時間について系統的に調べた.また,第一原理計算手法について,平面波基底PAW法と,全電子法の比較検討も行った.さらに,同様のファーウェイ転移が生じることが報告されているFe3O4においても,同様の検討を重ねた.
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでおり,計画通りバナジウム酸化物V305の電子状態と構造探求の研究を進める.この化合物では,3価と4価のバナジウムが共存し,その電荷整列と,それに伴う構造変化が,ファーウェイ転移として知られている金属絶縁体転移に於いて重要と考えられている.同様のファーウェイ転移が生じるFe3O4をリファレンスとして,V305についての第一原理法による理論的研究を進める. 具体的には,バナジウムの3d電子が関係する電子相関を,定量的に精確に採り入れた上で,フォノン計算などの系統的計算を行う.フォノン計算にあたっては,受け入れ研究室で開発した第一原理フォノン計算プログラムPhonopyを活用し,磁気構造と電荷整列について注意深く考慮したうえで,定量的な計算を実施する予定である.
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