本研究の主目的は,大規模な骨欠損の再建治療での応用を目指して,人工材料と幹細胞をハイブリッド化した人工骨組織を創製することである.具体的には,生体適合性に優れる生体ポリマー,生分解性合成ポリマーおよびリン酸カルシウム系バイオセラミックスを複合化した材料をscaffoldとして開発し,間葉系幹細胞を播種し一定期間培養することで,細胞を増殖・分化させるとともに細胞外基質を形成させて人工組織を構築することを目指す. 平成26年度は,平成25年度に開発したキトサン多孔体に細胞親和性を付与するために,RGDペプチドを用いた改質を行った.間葉系幹細胞を用いた細胞培養実験の結果,細胞増殖能はペプチドの導入により2倍程度に向上した.また,コラーゲンとキトサンを複合した新規複合系多孔体を作製した.この複合系多孔体は,コラーゲン単体およびキトサン単体の多孔体より,すぐれた細胞増殖能を示し,28日間の間葉系幹細胞の培養で,2倍程度の細胞増殖能を示した.一方,複合系多孔体の力学特性については,圧縮強度は,キトサンとコラーゲンの中間に位置したが,弾性率については,これら単体の多孔体よりすぐれた値を示した.さらに,骨分化培地を用いた培養の結果,複合系多孔体において骨分化マーカは単体多孔体に比べて,より上昇していた.また,力学特性の向上を目指した多孔体として,ハイドロキシアパタイトHA多孔体に生分解性ポリマーPLLAをコーティングした材料を開発し,力学特性が劇的に向上したことを確認した. 以上の結果より,本研究で開発したRGDペプチド改質キトサン,キトサン・コラーゲン複合多孔体,HA/PLLA多孔体は,骨組織工学において,間葉系幹細胞の足場材料として有用であることが示された.
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