研究課題
N_2Oは強力な温室効果ガスであると共にオゾン層破壊ガスでもあり、農耕地からの放出量が多く有効な削減策はない。ダイズ根粒菌Bradyrhizobium japonicum USDA110株は、nos遺伝子群をもち、N2_Oを還元することができるため、 N_2O削減効果が期待されるが、nos遺伝子群の発現制御系は不明な部分が多い。これまでにB. japonicum USDA110の自然突然変異集団から5M09株をN_2O還元活性強化株として分離した。5M09のN_2O還元活性上昇の原因解明は、nos遺伝子群の発現制御機構の解明にも繋がると考えられる。N_2O還元活性強化株と野生株のゲノム比較によりbll4572遺伝子が共通に変異していたので、bll4572遺伝子変異株を作成して調べたところ、高いN_2O還元酵素活性が観察された。生物情報学的な解析により、bll4572と上流のbll4573遺伝子は、硝酸同化制御の硝酸センシングの二成分制御系NasSTをコードしている可能性があった。そこで、当該nasST遺伝子の変異体と野生株におけるnosZ遺伝子の発現を調べたところ、硝酸無添加の好気および嫌気条件において、nasS (bll4572)変異がnasT (bll4573)産物を通じてnosZ遺伝子発現とN_2O還元酵素活性を高めていることが分かった。この促進効果は、lmMの硝酸存在下では認められず、nasS (bll4572)は硝酸センサーである可能性が考えられた。また、nasSTは脱窒過程の異化的な硝酸還元酵素をコードしているnap遺伝子群もnosZ遺伝子と同様の様式で制御されていることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の目的は、N_2O還元酵素遺伝子nosZの発現上昇とN_2O還元酵素活性を高めている原因遺伝子の同定であったが、本年度は原因遺伝子の同定だけでなくその転写制御のアウトラインを明らかにする事ができた。特に興味深いのは、原因遺伝子nasS(bll4572)が硝酸センシングを行う2成分制御系であること、硝酸同化と異化を超えた制御系の発見としてインパクトのある成果を得られた。
平成25年度の成果により、NasSTの制御メカニズム、脱窒遺伝子群の硝酸誘導、同化と異化のNasSTによる同時制御の生物学的意義、ダイズ根圏における酸素や硝酸の環境など色々な疑問がでてきた。そこで、今後nasSTによるnosZおよびnap遺伝子群の制御系のメカニズムをRNA-seqなどの手法で明らかにし、NasSTタンパク質レベルの解析も行い、窒素サイクルの生物学として、国際的にも注目される研究を展開して行きたい。
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