研究課題/領域番号 |
12F02401
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮下 和夫 北海道大学, 大学院水産科学研究院, 教授
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研究分担者 |
RAVI KUMAR S. 北海道大学, 大学院水産科学研究院, 外国人特別研究員
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キーワード | スクワレン / カロテノイド / 脂質代謝 / DHA |
研究概要 |
1. スクワレンによる生体内DHA増大作用 : スクワレンと海洋生物由来のカロテノイドを併用した場合の生理作用について、主として脂質代謝と生体内の酸化ストレスに及ぼす影響に着目した検討を行った。検討には、動物を用いたin vivo実験と培養細胞を用いたin vitro実験を併用した。なお、カロテノイドには海洋生物由来のカロテノイドとしてフコキサンチンとアスタキサンチンを用いた。それぞれのカロテノイドは、褐藻と微細藻から抽出・分別したものを使用した。その結果、特筆すべきスクワレンの機能性として、生体組織中の脂肪酸組成への影響、特に、オメガ3高度不飽和脂肪酸(PUFA)中、最も高い生理作用を有するドコサヘキサエン酸(22:6n-3 ; DHA)に対する増大作用が見出された。例えば、スクワレンの投与により、肝臓脂質含量などにはコントロールと比較して大きな違いは認められなかったが、DHA含量がスクワレン投与で、コントロールと比較して約4倍に増大した。投与した餌中の脂肪酸組成に違いはなかったため、スクワレン投与によるDHAの増大は、生体内でのα-リノレン酸(18:3n-3)からDHAへの変換促進作用に起因するものと推察された。なお、カロテノイドの抗酸化作用などに及ぼすスクワレン投与の影響はなかったが、スクワレンによるDHAの増大作用に対して各カロテノイドは若干相乗的に作用することも本研究で明らかになった。 2. カロテノイドの抗炎症作用に及ぼすスクワレンの影響 : アスタキサンチンやフコキサンチンは抗炎症作用を示すことが知られている。本研究では、こうしたカロテノイドの作用に及ぼすスクワレンの影響について培養細胞系を用いて検討した。その結果、スクワレンはアスタキサンチンに対しては、拮抗的に、また、フコキサンチンに対しては相乗的に作用することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り、平成25年度は、スクワレンと海洋生物由来のカロテノイドを併用した場合の生理作用について検討を行い、カロテノイドの抗炎症作用などに対するスクワレンの影響について幾つかの知見を得た。また、スクワレンによる生体内DHAの増大作用も見出した。この作用は、スクワレンの新たな機能性として興味ある知見であり、学術的にも極めて重要な成果といえる。なぜなら、「DHAは、必須脂肪酸であるα-リノレン酸から体内で合成できるが、この変換反応の効率は極めて低く、DHAを魚油などから直接摂取する場合と比較して、α-リノレン酸供給によるDHA増大の効果はほとんど期待できない」とする従来の学術的見解とは異なる研究の展開が、本研究の成果から期待できるからである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、スクワレンによる生体内DHAの合成促進作用が見出された。DHAは、心筋梗塞などの冠動脈疾患に対する予防効果を有する他、脳や網膜などの機能維持に必須であり、哺乳類の各組織中に見出される主要なオメガ3PUFAである。したがって、魚油などからのDHAの直接摂取が推奨されているが、過度の魚油摂取による生体内脂質過酸化の亢進、魚油の酸化安定性の低さ、原料となる水産資源の減少などの問題も指摘されている。これに対し、本年度得られた成果は、スクワレンによるα-リノレン酸からのDHAへの生体内変換反応の高い促進作用を示唆するものであり、その実用面での応用も期待できる。そこで、来年度以降は、スクワレンのDHA合成促進作用に焦点をしぼり、その分子機構などを明確にする。
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