研究課題/領域番号 |
12F02402
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 久典 東京大学, 総括プロジェクト機構, 特任教授
|
研究分担者 |
JIA Huijuan 東京大学, 総括プロジェクト機構, 外国人特別研究員
|
キーワード | パセリ / 大腸炎 / 腫瘍マーカー / トランスクリプトミクス / プロテオミクス |
研究概要 |
これまでにパセリの熱水抽出物がヒト結腸がん由来細胞株HT-29の増殖抑制効果が認められたことから、パセリには抗結腸腫瘍活性を有する可能性が示唆された。細胞レベルから生体レベルへのパセリの腫瘍増殖抑制作用を検証するために、まずは最初の一歩として、デキストラン硫酸ナトリウム誘導潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いてパセリ摂取による大腸炎の抑制作用を検討した。 体重減少、血便、下痢の3つのスコアからなる大腸炎の指標であるDAI (Disease Activity Index)を評価するとともに、トランスクリプトーム解析を基盤とした統合オミクス解析を活用し、その作用分子機構の解明を行った。パセリ摂取マウスにおいて大腸炎の発症に伴うDAI上昇および腸管の短縮は有意に抑制され、血中腫瘍マーカーのSerum amyloid A1 (SAA1)、および炎症マーカーのIL-6 (Interleukin 6)、Matrix metalloproteinase-3 (MMP3)の濃度も顕著に減少した。大腸のトランスクリプトーム解析では、炎症サイトカインのI1-6、ケモカインCc15、下流のHaptoglobin、cluster of differentiation 163、および線維化マーカーのTissue Inhibitor of Metalloproteinase l、Mmp3、Mmpl0の発現が有意に減少し、パセリの摂取により炎症の抑制、腸管短縮の改善に関与すると示された。肝臓トランスクリプトーム解析では、Saa1、c-Jun、S100 calcium binding protein A8など腫瘍マーカーの発現減少、stearoyl-CoA desaturase-1、ELOVL family member 6, elongation of long chain fatty acids、fatty acid synthase、NADP-dependent malic enzymeなど脂肪酸合成関連遺伝子の発現増加から、パセリを摂取したマウスにおいて腫瘍マーカー濃度の減少および体重減少の改善との関与が考えられた。また、肝臓プロテオーム解析では、クエン酸サイクルおよび尿素サイクルにかかわるタンパク質の発現増加、メチオニン・リサイクル経路にかかわるタンパク質発現減少から酸化的リン酸化の改善、酸化ストレスの低減が示唆された。以上のように、トランスクリプトミクスとプロテオミクスを組み合わせた統合的な解析から、パセリ摂取による大腸炎抑制作用メカニズムの遣伝子-タンパク質ネットワークを解明できた。今後、メタポロミクス解析を加えさらに詳細に解析する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスクリプトーム解析による遺伝子発現の知見と、プロテオーム解析にとるタンパク質の発現量変動の知見が得られ、パセリの大腸炎抑制作用の詳細な生体応答の一部を解明できた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後メタボローム解析を合わせた統合解析を活用し、遺伝子、タンパク質レベルの応答、調節以外に、パセリが糖、有機酸、アミノ酸、脂質など代謝産物プロファイルの変動に及ぼす影響を調べる。これら比較分析によりタンパク質である酵素やそれらをコードしているmRNAの個々の発現変化、翻訳後の修飾状態、また生物体最終代謝産物の変動を観察し、パセリ摂取による生体分子変化の全体像をより正確にかつ総合的に把握する。当初の研究計画から変更するところはあるが、本研究でパセリ摂取による見られた腫瘍マーカーなどの変動が今後パセリの腫瘍増殖抑制効果の検討に生かしたいと考えている。
|