p53遺伝子は、ヒトの悪性腫瘍において最も高頻度に異常が認められている。野生型p53遺伝子はがん抑制作用を有するのに対し、変異型p53は発がん性に作用する。しかし、数多くの変異がどのように、野生型p53を全く逆の作用をもつ分子へと転換するのかはあまりよくわかっていない。申請者らはArg273His変異を有するp53が野生型よりも多くのp53アイソフォームを発現すること、そしてその中には最近同定されたデルタ160p53アイソフォームが含まれることを示した。肺がん細胞株であるA549細胞にArg273His変異を有するp53を発現させると、細胞が密集状態になっても増殖を続けた。このがん細胞の特徴ともいえる性質は、Arg273His変異を有するp53のみならずデルタ160p53アイソフォームでも観察された。一方、Arg273His変異を有するp53遺伝子にデルタ160p53アイソフォームの発現に必要な開始コドンの変異を入れると、細胞増殖を誘導することができなくなった。さらに、ストレス環境下での細胞生存、細胞接着、三次元構造形成能、浸潤能など様々な性質についても解析を行ったところ、変異p53が有する性質のほとんどは、60p53アイソフォームの発現によって説明できることが分かった。この結果は、Arg273His変異を有するp53の性質は、デルタ160p53アイソフォームを始めとする短いp53アイソフォームにより説明できることを示す。
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