研究概要 |
糖尿病網膜症の治療は,病気が進行した状態でレーザーを用いた網膜光凝固や外科的治療の硝子体手術などを行うことが主流である.しかしながらこのような治療は,根本的に糖尿病網膜症を治療するのではなく,眼循環不全による眼虚血の改善,眼虚血に伴い発生してくる新生血管の退縮,眼内に発生した増殖組織および硝子体出血の除去などを主目的としたいわば対症療法的なものであり,糖尿病網膜症の病気自体を治療する治療法は,内科的な血糖コントロール以外に未だ存在しない.糖尿病網膜症モデル動物にて網膜血管に白血球が,網膜血管の内皮細胞に接着していることが明らかとなってきている.申請者は,糖尿病網膜症の病因に炎症が寄与していると考え,炎症性サイトカインのひとつのIL-1βに着目した.実際,糖尿病網膜症モデル動物では,糖尿病網膜症の網膜血管において,IL-1βの発現亢進を明らかにし,そのIL-1βの発現,分泌細胞が血管内皮細胞であることを解明した.IL-1βが,glia cell, MUller cells及びmierovascular endothelial cellsに作用しparacrine, elldocrine的に種々の細胞に作用し,さらなるIL-1βの発現を促進した.また,前述の細胞を用いて,高血糖刺激によるin vitro)でのIL-1βの発現誘導の検討を行った.MUller cellsおよびmicrovascular endothelial cellsでは十分なIL-1βの誘導が認められなった.これらの細胞は,cell lineではあるが,in vivo糖尿病モデルマウスの網膜のmicrovascular endothelial cellsからIL-1βの発現が認められることから,さらなる因子や他の細胞との相互作用が必要なのではないかと考えられた.さらにこれらの種々の細胞を使用し,IL-1βによる種々のサイトカイン,ケモカイン及びMMPの発現のスクリーニングを施行する準備が整ったところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
網膜の構成細胞の血管内皮細胞,Muller cellsや網膜色素上皮細胞などに対してTI.-1βが,autocrineおよびparacrine的に作用し,IL-1βの分泌発現をさらに亢進させていることが明らかになった.また,種々の網膜構成細胞における1L-1βによる種々の分子の発現スクリーニングの準備が整った.このような点から申請者の研究計画は順調に進行していると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
網膜構成細胞からIL-1βによって誘導されたサイトカイン,ケモカインなどの種々の分子の発現機構を明らかにする.そこで申請者は,IL-1βによる血管内皮細胞や他の網膜構成細胞への作用,これらの細胞からのIL-1β分泌発現およびその発現維持の分子機序を明らかにし,最終的に糖尿病網膜症そのものを治療する新たな治療方法の開発を最終目的として研究を進めていく.
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