研究課題/領域番号 |
12F02501
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浅井 美博 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 副研究部門長
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研究分担者 |
MARIUS ERNST Burkle 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 外国人特別研究員
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キーワード | ナノ構造熱電材料 / 有機熱電材料 / 変換効率ZT / 非平衡伝導理論 / 第一原理計算 / 量子フォノン輸送 / 分子接合系 / 分子コンポジット材料 |
研究概要 |
11月来日直ぐに開始したフォノン輸送を計算する為の第一原理コード開発は既に完成・終了し、開発済みの電子伝導度、電子ゼーベックを計算する為のコードと併せて熱電性能指数ZTの第一原理計算が可能になっている。これらの計算コードを用いて様々な材料の熱電特性の計算を今後予定しているが、まず積層シクロファンとendo fullerene分子接合系への適用計算を進めた。これらの有機分子系に共通してフォノン熱伝導度が強く抑制される事をまず確認した。これは電極フォノンと有機分子の分子振動の振動数ミスマッチから予期される事であり理論的な予測と良く一致する。これらについて現在、論文投稿準備中である。論文執筆と並行して化学的な修飾が電子・フォノン輸送に及ぼす影響を研究している。材料設計はモデル理論では議論出来ない問題であり第一原理計算の効用が最も顕著になる問題であるが、こういった研究を行う事により熱電特性の改良のヒントが得られるであろう。今までは熱電計算の材料探索面を強調した議論を行って来たが、この問題は物理的にも興味深い問題を含んでいる。接合狭窄効果により電子伝導度は量子化されるが、量子フォノン伝導の場合は接合構造がどの様な影響を及ぼしているのであろうか?この問題を第一原理計算により研究している。結果を実験と比較検討する事を予定している。 フォノン輸送の理論計算には通常、古典分子動力学法が用いられる場合が多い。古典分子動力学法を用いたフォノン熱伝導度の計算は低温で破綻する事が知られている。デバイ温度より低い温度領域では量子効果によりフォノン熱伝導度が抑制されるが、古典分子動力学法では量子効果が取り込めていない為に、低温での抑制が働かず誤った結果を与える。フォノン熱伝導度に対する古典分子動力学シミュレーションに量子効果を加える為の補正理論が幾つか提案されている。これらに付き検討を加え、上記の量子フォノン熱伝導度の計算結果を参照値としながらより適切な補正法を確立し、複雑な分子コンポジット系に有用な熱伝導度の理論計算手法を確立する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一原理計算に基づく量子フォノン熱伝導度の計算スキームの確立は予定していたよりも大幅に前倒し成就した。結果をまとめた第1報論文は既に準備中であり、幾つかのプロジェクトが並行して進んでいる。その幾つかは純粋な理論研究であり、他は実験グループとの共同研究である。フォノン熱伝導度の古典分子動力学計算に対して量子補正を導入する試みに関しては、ノイズ熱浴と非平衡分子動力学法を結びつける理論的な枠組みを構築予定であり、検討が進んでいる。一方、古典分子動力学法に基づく熱伝導度の計算コードは既に開発済みであり、補正理論の確立を待って、そのコード実装に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当所提案した研究計画は順調に進んでおり変更の必要はない。熱電特性の第一原理計算結果が大変有望であり、多くの実験家との協力が順調に始まっている為、熱電特性の第一原理研究が今後とも中心的な課題となる。課題の中には原子スケールでの熱輸送現象の基礎的な理解を得る為の研究と同時に、高い熱電性能を目指した材料設計等の応用的な研究も含まれる。次のステージでは古典分子動力学法を産総研実験グループが開発した複雑な高分子複合材料に適用し、その熱伝導度の理論シミュレーション研究を行う予定である。低温における結果の信頼性を高めるために、量子補正をその結果に加味して行く予定である。
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