研究課題
動物の性格(行動特性)の、多様性維持と進化の機構の解明は、近年の行動生態学の重要なテーマの一つである(Dingemanse & Reale 2005 ; van Oers & Sinn 2011)。非ヒト霊長類においては、性格の表出の多様性、さらには遺伝的背景の研究が行われてきた(Adams 2011)が、進化的視点での研究はなかった。性格の評定方法としては、主に飼育個体において、観察者への質問紙による評定が行われていた(Weisse et al, 2009)。鳥類や哺乳類の各種で行われているような行動テストを野生霊長類にも応用すれば、新たな視点で性格評定を行うことが期待できる(Reale et al. 2007)。本研究では、長期にわたる観察により母系の血縁が判明している野生ニホンザル集団を対象として、性格の進化過程の解明を目指した。具体的には、家系と行動の情報にもとついて、性格の遺伝様式、選抜淘汰の有無、性別や性格要素同士の関連、性格の可変性および可変性の進化などを、Quantitative geneticsの手法を用いて解析した。性格評定のために2種類の行動テストを行った。新奇物体(プラスチックのおもちゃ)と新奇食物(ウズラのゆで卵)を提示し、反応をビデオカメラで記録した。2013年の5,6月に151回のテストを実施した。前年度とあわせて348回のテストにより、前個体の78%が新奇物体、53%が新奇食物について、少なくとも1回のテストを受けた。新奇食物への接近が遅い個体は接近後に食物を調べたり味をみる時間が短かった。また同じ個体では、新奇物体への接近および扱いについて、食物と同様の傾向を示した。性、年齢、季節(繁殖季と非繁殖季)による影響は見られなかった。順位の高い個体は中・低順位と比較して、新奇物体への興味が弱い傾向にあった。99個体について、マイク白サテライト16マーカーの遺伝子型判定を行い、全組み合わせの血縁度を推建した。血縁が近い個体は、新奇食物への反応がよく似ていた。また25項目の質問紙による性格評定を、5名の観察者により、79個体について行い、優位性、不安性、親密性、知性の4主成分を抽出した。血縁と行動の関連性を解析し、予備的な研究成果を、海外および国内の学会で発表し、論文を執筆した。
1: 当初の計画以上に進展している
血縁、行動テスト、性格評定の相互の関わりについて興味深い成果が得られ、学会発表と論文執筆を行い、新たに候補遺伝子の型判定も視野に入れた計画を立案できた。
少なくとも2報の論文を作成予定である。一つ目は、野生霊長類としては初めて、新奇性追求に関る行の個の遺伝的背景を解析した論文で、近々投稿する。二つ目は質問紙による性格評定と行動や血縁との関連について、解析を進め、投稿する。さらに、これまでの解析で血縁(ゲノム類似性)と行動の関連が見られたことにもとづき、オキシトシン受容体など社会関係に関与する候補遺伝子の型判定を行い、行動や性格との関連についても解析を進める予定である。
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