本研究の目的は曹洞宗の口伝である切紙と天台宗の口伝法門の関係を明らかにすることであり、その目的を完遂するために天台宗から曹洞宗への伝え方とその内容に焦点を絞る。今までの研究は二つの例に基づいてその過程を取り調べた、その二つの例は象徴としての鏡と戒律の言説である. まず、象徴としての鏡については、曹洞宗の伝法式では鏡を二面使用する。中国禅宗の場合はそのような伝法儀式、または儀礼的な鏡の使い方がなかったので、確かに日本禅宗の発展として捉えられるが、その源流は日本天台宗、特に中古天台における顕教灌頂である。それを明らかにするために、中古天台口伝法門の色々な流派、つまり恵心流、檀那流と戒家の、伝授と関係がある資料を調べた。鏡という比喩が天台宗口伝法門の資料からよく出てくるが、恵心流の伝授儀式の特徴は鏡を二面使用することである.ある恵心流の資料の中でその鏡を壁に掛けるという指示があり、曹洞宗の資料の中に同じ指示が見え、さらに天台宗の資料は曹洞宗のテキストより古いものであるから、結果として、曹洞宗伝法儀式は象徴としての鏡と使い方が天台宗から輸入された、と考えられる. 次に、戒律の言説については、曹洞宗伝法儀式というものは基本的に受戒そのものであったが、授けた戒は中国禅宗に用いられた具足戒ではなくて、日本天台宗に伝えられている菩薩戒である。口伝法門、特に恵心流と戒家の場合は受戒そのものが成仏とされて来た、曹洞宗の伝法式は同じ考え方に基づいたものであったから、天台宗の影響かよく見える。 総合的結果として、本研究は曹洞宗伝法儀式が天台宗の影響をよく受けたことを明かしていると言える。
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