研究課題/領域番号 |
12F02786
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松沢 哲郎 京都大学, 霊長類研究所, 教授
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研究分担者 |
WATSON C.F. 京都大学, 霊長類研究所, 外国人特別研究員
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キーワード | ニホンザル / 伝播 |
研究概要 |
人間の文化の進化的起源を探る研究である。人間以外の動物にも文化的行動の存在することが指摘されている。今から60年前の、野生ニホンザルのイモ洗い行動に端を発した研究である。霊長類学という新興の学問の発祥につながる研究となった。その後、野生チンパンジーやオランウータンでも道具使用の文化が報告され、カニクイザルやオマキザルでも見つかり、ニューカレドニアクロウなど鳥類でも文化的行動が報告されている。 クレア・ワトソンは、そうした研究の原点に戻って、ニホンザルの文化について、行動の伝播と継承の問題を実証的に調べようとしている。対象は、愛知県犬山市の霊長類研究所のリサーチリソースステーション(RRS)に暮らすニホンザルである。里山をフェンスで囲っただけの広大な敷地に、自然の構成に近い群れが飼育されている。 その1群のニホンザルの中で、トークン(代理貨幣)の使用という文化的行動が、そのようにして群れのサルのあいだで広まってゆくかを検証する。そのために、毎日、RRSに通って、ニホンザルを至近距離から観察できるように、群れで暮らすニホンザルに慣れてきた。個体識別もできるようになった。さらにそこからサル1個体をおびき寄せて、トークンを使用する学習に入っている。トークンと呼ぶプラスチックの筒がある。それを実験者とのあいだで交換する課題である。サルが実験者にトークンを手渡すと、ご褒美として交換に食べ物がもらえる。現在、サル1個体が順調にトークンを交換するようになった。 今後は、こうした行動をそばで見ていた他の個体のなかにどのように広まっていくかをみる。そうした過程で、トークンの色を変えて、色ごとに違う食べ物がもらえる、といったような条件を付加する。トークンという切り口から見えてくる行動の社会的伝播・世代を超えた伝播を実証的に探求しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
第一段階の研究(訓練の予定は妥当である)で、グループ1の第一位のメスザルに対し、伝播が行われるために必要な行動の訓練に成功した。しかし、グループ2において、そのメスザルを単体で訓練する難しさに直面している。彼女の訓練セッションへの参加は徐々に期待できなくなってきた。当初の予想よりも、全体的な訓練は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
残念ながら、クレア・ワトソンの来年度の予定は数か月程度の遅れが予想される。グループ2の第一位のメスザルを単体で訓練する原点に返って、もう一度開始しなければならない。しかし、今までのところ、そのメスザルからは良い進捗が得られている。今では以前より、より確実で持続的に訓練へ参加しており、第二段階の研究に必要な行動の訓練に役に立つことが見込まれる。
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