研究概要 |
局所的な情報の総和として図形の大域的な不変量を記述することは, 幾何学における典型的な問題意識である. 超平面配置や代数曲線に対して, 局所的な特異点の情報から, 大域的な位相的情報を得ることは上の問題意識に関連して, 広く研究されている. 特に超平面配置の場合は, 局所的な構造は単純なので, それらを大域的に束ねる組合せ論的な構造(交叉半順序集合)を使って, 様々な位相的・代数的不変量が記述できるか? というのが基本的な問題である. 本研究では「超平面配置の自由性が組合せ論的に決定できるか?」といういわゆる寺尾予想を中心に, 今年度は様々な設定での「組合せ論的決定可能性」について研究を進め, 直線配置の補集合の基本群の一次元表現のモジュライ空間である指標トーラスにおける認容局所系のなす部分集合の構造と, 直線配置のミルナー束のモノドロミーに関する成果を得た. 上記の問題に関して, 局所系係数コホモロジーを組合せ論的に決定できるかどうか? という問題が超平面配置のトポロジーに関する中心問題である. Esnault-Schechtman-Viehwegにより, 認容局所系に関しては青本複体を使い, 組合せ論的に計算する方法が知られている. 組合せ論的決定可能性に関して, 自然な戦略として, 非認容局所系の集合を決定し, 非認容局所系に対するコホモロジーの計算手法を開発することが考えられる. 今年度の研究で, S. Nazir, M. Torielli, M. Yoshinagaの共同研究により, 指標トーラスのなかで非認容局所系のなす集合の構造を決定した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所系係数コホモロジーや関連してミルナーファイバーのモノドロミー固有空間に関する成果が得られた. これらの成果は, A. Suciuなどこの方面の中心的研究者の最近の研究とは独立な方向への進展で, 4-ネットの存在問題など, 純粋に離散幾何学的な問題に対しても予想外の応用が見込まれる. 一方, 申請段階で中心問題と想定していた寺尾予想へのアプローチは中断している.
|
今後の研究の推進方策 |
実直線配置の局所系係数コホモロジーやミルナーファイバーのモノドロミー固有空間に関運して, 上記の非認容局所系の分析や共鳴バンドを使った研究を進める. 最近発表されたPapadima-Suciuによる有限体上の青本複体による上限を組み合わせることによって, ミルナーファイバーのモノドロミーに関連している(と予想されている)4-ネット構造の非存在を証明することが一つの目標である. またこれらの問題は, 純粋に離散幾何学的に定式化できる問題とも関係がある. 直線配置のトポロジーの研究を介して, トポロジーと離散幾何の関係する新たな研究領域が拓けると期待している. これらの進展が一段落した時点で, 当初予定していた寺尾予想へのアプローチも速やかに再開したい.
|