研究課題/領域番号 |
12F02793
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村尾 美緒 東京大学, 大学院理学系研究科, 准教授
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研究分担者 |
FABIAN Furrer 東京大学, 大学院理学系研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | 量子暗号 / 連続変数 / 安全性証明 / 不確定性関係 / 量子もつれ / 量子鍵配布 |
研究概要 |
量子暗号は、量子力学に基づいて安全な通信を保証する、新しい暗号処理の方法である。現在広く用いられている古典的な公開鍵暗号の安全性は、特定の計算問題の複雑性に基づくものであるが、量子暗号では、鍵の情報を量子状態に符号化することで、計算問題の複雑性に頼ることなく物理学の原理から任意の盗聴からの安全性を保証することができる。量子系の高速かつ信頼できる通信手段として、電磁波の強度の自由度を用いる方法がある。しかし、電磁波の強度は連続変数であり無限の自由度を持つため、この系での安全性を厳密に証明するのは困難であった。 近年、拡張された不確定性原理に基づいた新しい証明手法により、電磁波強度を通信手段として用いた場合の一般的な盗聴に対する安全性に関して、初めて定量的な解析が成された。しかしながら、暗号鍵生成の効率や、安全性をどこまで保証できるかといった問題は未だ残されたままである。我々は、拡張された不確定性原理を、連続変数の場合に対してより詳細に調べることでこの問題の解決に取り組んだ。この拡張された不確定性原理は、被測定系と量子もつれにある観測者が、2つの相補的な観測量を測定する際の統計的なゆらぎを評価する関係式を与える。我々は、ロスのない場合の適切な状況下では、この不確定性関係が等号達成可能であることを理論的に示した。また、ロスのある場合の効率についても数値計算により解析を行った。我々は更に、このような量子暗号処理を実装する実験を想定し、ある制限されたクラスの盗聴に対する安全性の解析を行った。将来的にはこの解析を更に進め、一般的な盗聴に対して安全な暗号処理を実験で実装する方法の考案を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画した通り、連続変数の量子暗号処理の効率に関する問題を明らかにすることができた。ロスのない場合に関して効率の上限が達成可能な条件を明らかにしただけではなく、更にロスのある場合に対しても、数値計算による複数の解析を行つた。この結果は計画を上回る成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究により連続変数の暗号処埋の効率が十分高いことが明らかになったため、今後は実験で実際にこの量子暗号処理を実際に実装することが目標となる。そのためには、実験に合うように調整された情報整合方法の導出が必要となる。 不確定性関係はその概念自体も興味深く、連続変数を用いた量子情報への更なる応用も考えられる。そこで今後は、この解析を更に進めることによって、一般的な盗聴に対して安全な暗号処理を実験で実装する方法の考案を目指す。
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