研究実績の概要 |
AGNの中心核構造を理解するには、 X 線観測がひじょうに有効である。X 線は、1)トーラスで隠されているAGN を見つけ、2) 鉄輝線を用いた診断でトーラスの構造を決定し、3) ブラックホール最近傍のガスの状態と超重力場の物理を検証できる、というユニークな特長をもつ。Ricci氏は、当該年度に3本の査読論文を主著者として出版した。 Ricci et al. 2014 (A&A 567, A142)では、幅の狭い鉄K輝線の強度と、中間赤外の観測で得られていたトーラスの性質との関係を調査している。我々は、鉄K輝線が、トーラスの巨大ブラックホールを覆う立体角とともに増加することを見つけた。その傾きは、モンテカルロシミュレーションによって得られた値と合致した。この結果は、輝線のほとんどが実際にトーラスから放射されていることを示唆している。 Ricci et al. 2014 (MNRAS 441, 3622)では、日本のX線衛星「すざく」によって観測された大きな数のAGNサンプルを解析し、吸収を受けた「2型AGN」から初めて「X線Baldwin 効果」を検出することに成功している。鉄K 輝線のX線光度に対する減少の傾きが、1型AGNと2型AGNの間で一致することを発見し、これら2つの種族で同一のメカニズムが働いている示唆を得た。 Ricci et al. 2014 (ApJ 795, 147)では、「すざく」衛星による2型AGN「IRAS00521-705」の観測データの解析結果を報告している。この天体からは、2型AGN として初めて、きわめて幅の広い鉄K輝線に見える構造が発見されていた。この「すざく」データは、研究期間中にRicci 氏が観測責任者として提案を行ない、取得したものである。詳細なデータ解析の結果、ブラックホール近傍の相対論的効果が見えている可能性と、視線方向にある物質の部分吸収によって作られている可能性の両方があり得ることを示した。
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