振動子の自励周波数はその質量と、バネなどの復元力のバネ定数によって決定される。この復元力は、振動子自身のもつバネ性と、振動子がおかれた場によって生じる力勾配の和としてとらえることができる。例として、原子間力顕微鏡においては、振動子であるカンチレバーの自励振動の変化を用いて探針と試料の相互作用が一定の面を保持する制御を実現している。また、振動子の質量も振動周波数を決定するため、振動子の周波数変化を用いて原子レベルの質量計測がカーボンナノチューブやグラフェンを用いて実現されている。本研究においては、ナノメートルオーダの振動子(以下、ナノ振動子)の計測の手法として、イオンや電子のエミッションの応用の研究を行っている。エミッションを用いることにより、振動子へ光を集光したり、計測のための電極を素子にあらかじめ設置する必要がなくなる。また、振動子として、トップダウンで作製した振動子に加え、単分子、ポリマー、グラフェン片など、さまざまなボトムアップの手法で作製した素子の計測と応用が可能と成る。今年度は、フィールドイオン顕微鏡、ないし、フィールドエミッション顕微鏡を用いて、エミッター先端に固定した各種ナノ振動子の振動計測の装置を実現した。 振動計測を通じて、微小な質量の検出や、場の計測を可能とすることを目指す。いままでにタングステン探針に金をコートしたものに単分子膜を生成し、その振動をFIMで観察可能であることを示した。さらに、追試性の向上を目指し、真空チャンバに直接、各種分子、金、などを導入可能なノズルを実現した。また、振動子の保持ベースとなる金属エミッターとして、タングステン、ニッケル、プラチナ、を用いたエミッターの作製を行い、適した作製パラメータを把握した。平行して、電界のシミュレーション、イメージガスの軌跡計算を行い、構想に適したエミッターと振動子の大きさ、引き出し電極の形状や位置についての知見を得た。金属探針の先端に対象と成る分子やナノ振動子を固定するため、金属探針の電界下の安定度は重要である。今年度、タングステンの方位と電界強度の影響を東大生産技術研究所尾張研究室との共同研究として調べた。その結果、探針先端原子のモビリティが方位によって大きく異なり、アトムプローブにおいて三次元組成分布を再構成した場合の精度が探針の方位に強く影響されることを示した。この知見は、本課題においても重要である。探針の電界に対する安定度、エミッションに必要な電界強度、ナノ振動子の電界下での安定度などの諸条件を満たす作動パラメータや、FIMにおけるイメージガスの選択が重要であるため、本年度実現した、その場探針修飾装置を用いて、構想に適した条件を調べた。
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