研究概要 |
グルタミン酸は哺乳類中枢神経系において主要な興奮性神経伝達物質として働き、認知・知覚・学習・記憶といった我々の脳高次機能を支えている。神経細胞がグルタミン酸を放出するためには、グルタミン酸をシナプス小胞に濃縮する過程が必須であり、この過程を司るのが小胞型グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)である。VGLUTは、液胞型H^+ATPaseが形成するH^+電気化学勾配を駆動力として小胞内にグルタミン酸を輸送するが、その詳細なメカニズムは長らく未解明のままである。特に、H^+の化学勾配(△pH)の寄与が論争の的になっている。また、最近、小胞膜上に存在するNa+/H^+交換体の活性が△pHを打ち消すことにより、VGLUTを活性化することが報告された(Goh GY et al.,Nat.Neurosci.14:1285-92,2011)。本研究では、グルタミン酸輸送におけるpHの寄与を調べるために、組換えVGhUTタンパク質とT-FoF1タンパク質複合体を再構成したリボソーム内に蛍光pH指示薬を取り込ませることにより、グルタミン酸輸送活性と小胞内pHの関連を明らかにすることを目的としている。本年度は、まずH^+ポンプの代用としてT-FOF1タンパク質複合体を再構成したリボソームに二種類の蛍光pH指示薬(HPTSとpHrodoTM Red)を封入させ、ATPを加えた時の内腔pH変化をモニターし、両指示薬の有用性を調べた。その結果、pHrodoTM RedはpHだけでなくCl-に対する感受性を有しているため、本実験に不向きであることがわかった。一方、HPTSはATP添加に伴い蛍光の減衰が見られることから、今後の実験に使用可能であることが確認できた。今後は、HPTSの蛍光強度のpHの定量的相関曲線の作成法を確立し、グルタミン酸輸送におけるH^+の役割を調べる。
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