研究課題/領域番号 |
12F02815
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西野 友年 神戸大学, 理学研究科, 准教授
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研究分担者 |
KRCMAR Roman 神戸大学, 理学研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | ハイゼンベルク模型 / エンタングルメント / 相転移 / エントロピー / ボルツマン分布 / 対称性 / 磁性 / 双曲面 |
研究概要 |
古典ハイゼンベルグ模型を離散化した2次元格子モデルである「多面体模型」について、その統計力学的性質を平坦面及び双曲面上で数値解析し、秩序・無秩序相転移の次数及び臨界指数等の決定を目標として、角転送行列繰込み群(CTMRG)を用いた数値解析を開始した。まずはスピンが「頂点を切断した正4面体(Truncated Tetrahedron)」の12個の頂点方向を向く、3次元的な12状態模型を正方格子上に置き、その比熱をあるパラメター線上で求めた。求められたデータは予想に反するもので、3回の相転移が観測された。そこで、計算するパラメター領域を広げ、相図の確定を行った。その結果、強磁性相と非磁性層の間に、異なる対称性を持つ2種類の秩序相があり、通常は温度上昇に対して2回の相転移が現れるが、設定するパラメターの値によっては弱磁性的な2秩序相間の相転移が加わることが判明した。このように、強磁性と非磁性の間に弱い磁性層が安定に存在することは、連続極限である古典ハイゼンベルグ模型では起きない現象であり、離散的自由度を持つ模型の特質であると言って良いであろう。この結果を踏まえて、より多くの多面体模型に対して、同様の弱磁性が存在するかどうかを検証するという研究の方向が得られた。これとは別に、量子系のエンタングルメント・エントロピー(EE)と熱力学の関係について、有限サイズの横磁場イジング模型に対する数値的対角化を用いた解析を開始した。1次元鎖を2分割し、片方を系、他方を熱浴とみなす設定は珍しいものではないが、EEと熱力学エントロピーの関係は未だによくわかっていない。計算の結果として、熱浴に対して系のサイズが充分に小さい場合には、ボルツマン分布が回復されることがわかった。また、熱浴の状態密度が調密ではない関係で、系と熱浴の結合があまりにも小さければ、ボルツマン分布が再現されない事例が生じることも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
離散的模型の熱力学を探る目標へ向かって、外国人研究員と共同して研究を行う体制を充分に整えることができ、まだ論文としてまとめるには多少の不足があるが、順調に計算データが集まりつつある。また、当初はオプション的な課題と考えていた量子系のエンタングルメント解析についても、在籍する大学院生を交えた共同研究を開始することとなった。但し、研究の方向づけが発散しないよう、目を配る必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平面格子上での解析結果をもとに、今後は双曲格子上での離散的模型の性質を調べて行く。また、それに対応する、双曲変形を受けた1次元量子系についても、その量子相転移の様相を、密度行列繰込み群などの計算手法を通じて探って行く予定である。そして、エンタングルメントを足がかりとした量子系のサイト間結合についての「地図」を描く手法について、早期の解決を試みる。前年度の研究計画に挙げていたシェルピンスキー・ガスケット上の格子模型には、まだ手がつけられていない状況であるので、双曲格子上の熱力学解析の一環としてこの研究を推進する。これまでに得られた結果については、早い時期に論文としてまとめ、出版して行きたい。
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