オセアニア集団を対象に、β_2アドレナリン受容体遺伝子(ADRB2)多型と肥満との関連を検討し、ADRB2遺伝子上流領域に存在する単一塩基多型(SNP)rs34623097が肥満(BMI>27kg/m^2)と最も強い関連を示すことを見出した。先行研究では、ADRB2の27番目のアミノ酸置換を伴うSNPの27グルタミン酸アリル(27Glu)は、アジア集団において肥満リスクと関連するが、ヨーロッパ集団においては関連していないことが報告されている。今回、検出したSNPは、ヨーロッパ集団において観察されないこと、本研究により、アジア・オセアニア集団においてrs34623097-Aと27Gluとは正の連鎖不平衡にあることが確認されたことから、rs34623097が第一義的な肥満関連多型である可能性が強く示唆された。次に、当該SNPの機能的意義を解明し、肥満発症にADRB2遺伝子が果たす役割の理解を目指すことを目的とし、rs3462309-Aとrs3462309-Gの各アリルのコンストラクトを作製し、HEK293を利用したリポーター遺伝子アッセイを行った。rs34623097-AアリルがGアリルに比べて10%ほどADRB2の発現量を低下させることを見出した。電気泳動移動度シフトアッセイにより、rs34623097-Aアリル特異的に結合する転写抑制因子の存在が示唆され、rs34623097-AはADRB2の発現を抑制することで肥満リスクを高めていると結論した。さらに、分子進化的解析によって、現生人類のrs34623097-Aアリルは、ネアンデルタールから遺伝子移入した可能性があることを示した。本研究成果は、アジア・オセアニア集団でのみ観察される27Gluと肥満との関連に合理的な説明を与えるとともに、肥満者の肥満細胞で観察されるADRB2発現量の低下が、肥満の結果ではなく肥満の原因であることを示唆している。
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