研究課題
平成24年度は、過去の先行研究において行われた、パラボド目を対象に含んだ分子系統解析に用いられた2つのデータセット、(1)LSU及びSSUrRNA、(2)64個のタンパク質コード遺伝子(Deschamps et al. Molecular Biology and Evolution. 28(1):53-58.2011)のそれぞれについて最新のデータを独自に収集し、解析データにi)塩基組成やアミノ酸組成の配列間における不均一性や、ii)系統間での進化速度の不均一性など、解析結果に悪影響を及ぼすバイアスが存在するか否か、複数の手法に基づく徹底的な検証を行った。これは、今後本研究において取得された配列データを加え新たに系統解析を行う場合、基盤となるデータセットに既にバイアスが含まれていると、最終的に誤った知見を導きかねないためである。この検証の結果、先行研究において使用されたデータセットについては、塩基・アミノ酸組成に配列間で大きな不均一性は検出されなかった。しかしながら、これらのデータセットには系統的に離れた生物種由来の配列が多く含まれており、また「従属栄養」「寄生」「片利共生」と全く異なる生活様式をもつ鞭毛虫由来の配列が混在していた。このため、申請者はこれらのデータセットに対し「系統間での進化プロセスの不均一性を適切に考慮した手法」を用いて再解析を行う必要性があると判断し、モデル選択等の基準に基づき適切な解析方法を選定した。この際、既存の系統解析プログラムではこれらの解析手法を試すには計算負荷が大きく、現実的な時間内で解析を終えることができない、という問題が発生したため、申請者自らがソースコードの改訂を行い、実用に耐える系統解析プログラムを作成した。現在、この改訂版プログラムを用い、配列データの再解析を行っている最中である。また、タンパク質コード遺伝子配列の収集に伴い、既にEST解析によってトランスクリプトームデータが明らかとなっている底棲性鞭毛虫(Bodo caudatus)を対象に、その遺伝子構成などについてデータ整理を行った。今後、寄生性鞭毛虫(Trypanoplasma borreli)のEST解析を実施する予定であるので、今回整理したデータを基盤にパラボド目鞭毛虫間でのトランスクリプトームデータの比較解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最終的な目的を達成するためには、適切な手法に基づく分子系統解析によって進化系統樹を得ることが不可欠である。H24年度では、今後分子系統解析を行うにあたり基盤となる「バイアスの少ない配列データセット」を構築することができ、またそのデータセットに対する適切な解析手法も選定した。さらに、系統解析用プログラムの改訂による計算時間の短縮にも成功し、本研究の目的を期限内に達成するために必要不可欠な基盤構築はほぼ完了した。従って、H24年度までの進捗はおおむね順調と評価できる。
基盤となる配列データセットに対し、(1)新たにサンプリング・単離した底棲性鞭毛虫より抽出したLSUおよびSSUrRNA配列、(2)大量培養系の確立された魚介類寄生虫(Trypanoplasma borreli)のEST解析より得られるタンパク質コード遺伝子配列、などを追加する。これにより作成された本研究独自の配列データセットに対し、進化プロセスの不均一性を適切に評価できるモデルを用いた分子系統解析を行うことで、パラボド目内部の多様性および魚介類寄生虫の起源を解明する。また、Trypanoplasma borreliのEST解析によって得られたトランスクリプトームデータを整理し、底棲性鞭毛虫であるBodo caudatusやProcryptobia sorokini由来のデータと比較、寄生虫特有の遺伝子を探索し、その機能推測を行う予定である。
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PloS ONE
巻: 第8巻3号
doi:10.1371journal-pone.0058458
統計数理(Proceedings of the Institute of StatisticaI Mathematics, 和文誌)
巻: 第60巻2号 ページ: 289-303