研究課題/領域番号 |
12J00007
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石川 奏太 筑波大学, 大学院生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | パラボド目鞭毛虫 / キネトプラスチド類 / 寄生性生活様式の起源 / 大規模分子系統解析 / 進化プロセスの不均一性 / 高性能計算 / トランスクリプトーム解析 / 寄生虫特異遺伝子の探索 |
研究概要 |
パラボド目鞭毛虫の内部系統関係を解明するには、多様な生活様式をもつ鞭毛虫由来遣伝子配列が混在する大規模データセットに基づき分子系統解析を行う必要がある。このような分子系統解析において頑健な進化系統樹を得るためには、進化プロセスの不均一性を適切に考慮できる「Non-Homogeneous置換モデル(以下NHモデル)」の適用が不可欠である。しかし、NHモデルを用いた分子系続解析は計算コストが非常に大きく、大規模遺伝子配列データに基づく分子系統解析への適用が困難であった。そこで、本年度ではNHモデルを実装した分子系統解析プログラムの並列化に中心的に取り組み、超並列計算技術を活用することで高速かつ高精度な大規模分子系統解析の実現を目指した。結果、100種以上10,000座位以上からなる大規模遺伝子配列データの解析においても、1,000以上のCPUを用いることで、従来に比べ400倍もの速度向上を達成することに成功した。これにより、最終年度で実施する「パラボド目鞭毛虫の大系統解析」において、高速かつ高解像度なデータ解析を行うための基盤を完全に整えることができた。 上記の方法論的研究に加え、本年度ではパラボド目寄生性鞭毛虫Trypanoplasma borreliおよび新奇発見鞭毛虫Azumiobodo hoyamuShiの大量培養およびトランスクリプトーム解析を完了した。A. hoyamushiはマボヤの被嚢軟化症を引き起こす寄生性鞭毛虫であり、形態的特徴からパラボド目と同じくキネトプラスチド類に属することが示唆されているが、その系統的位置は未だ不明瞭なままである。従って、本研究で行う大規模分子系統解析に用いるデータセットにA. hoyamushi由来遺伝子配列を加え、本鞭毛虫の系統的位置を決定することで、パラボド目の内部系統関係や同目における従属栄養性生活⇒寄生性生活の進化経緯などに関し、非常に有用な知見を得ることが期待できる。上記2種のトランスクリプトームデータについては、現在アセンブル作業を鋭意進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度では、Non-Homogeneous置換モデルを実装した分子系統解析用プログラムの並列化および大規模データ解析における同プログラムの性能評価を行った。これにより、最終年度にて計画しているパラボド目大系統解析を高速かつ高精度に行うために必要不可欠なソフトウェア基盤を整えることができた。新奇発見鞭毛虫を含めた寄生性鞭毛虫2種のトランスクリプトーム解析も完了し、大規模分子系統解析に向けた遺伝子配列データも揃いつつある。従って、本年度までの研究進捗状況はおおむね順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となるH26年度では、T. borreliおよびA. hoyamushiのトランスクリプトームデータのアセンブルを進め、Deschamps et al. Mol. Biol. Evol. 28(1) : 53-58. 2011にて使用された64遣伝子の配列データを抽出する。申請者がこれまでに用意したパラボド目大系統解析用データセットにこれらの遺伝子配列を加え、最終的なデータセットを作成する。本データセットに基づく大規模分子系統解析により、パラボド目内部の系統関係および新奇発見鞭毛虫A. hoyamushiを含めた寄生性鞭毛虫の進化的起源を解明する。また、既に公開されているパラボド目底棲性鞭毛虫由来のトランスクリプトームデータと、本研究で得られた2種の寄生性鞭毛虫由来データとを比較し、寄生虫ゲノムに特有の機能性遺伝子を探索する。
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