研究概要 |
8本に分節化したインフルエンザウイルスのゲノムRNA(vRNA)は、それぞれ核蛋白質(NP)およびヘテロ3量体(PA、PB、PB2)のポリメラーゼと共に、vRNAの転写・複製を担うリボ核酸蛋白質複合体(RNP)を形成する。ポリメラーゼは、vRNAの3'および5'末端が形成するプロモーター領域に結合し、棒状のRNPの一端に局在することが生化学的解析および電子顕微鏡法により明らかにされている(Honda et al.,1987年 ; Murti et al., 1988 ; Arranz et al., 2012 ; Moeller et al., 2012)。また、vRNAの3'および5'末端にはRNPのウイルス粒子内への取込みに重要なシグナル配列の存在が報告されている(Fujii et al., 2003 ; Hutchinson et al., 2010)。感染細胞核内で形成された8種類のRNPは細胞膜直下まで輸送され、出芽ウイルス粒子の先端から吊り下げられる様に1セットずつ規則的に取り込まれる(Nodaetal.,2006,2012)。しかし、8種類のRNPがどのように配置しているか、またRNPがどのようにしてウイルス粒子先端の膜直下で認識されるかなど、RNPについては不明な点が多い。そこで、ウイルスの出芽途中および出芽直後のウイルス粒子内において、どのような方向でRNPが取り込まれているかを明らかにすることを目的とした。ウイルス感染細胞の超薄切片を用いて免疫染色を行い、RNPの方向性の指標となるポリメラーゼの局在を調べた。その結果、ポリメラーゼは出芽ウイルス粒子の先端側に限局せず、ウイルス粒子の先端側と基部側の両側に局在した。また、ウイルスの出芽途中においても、細胞膜から吊り下がったRNPの上部(細胞膜直下)で検出されるポリメラーゼとRNPの下部(細胞質)で検出されるポリメラーゼが存在した。ウイルス粒子内において、必ずしも8種類全てのRNPが同一方向ではなく、先端方向にも基部方向にも向いて配置されることが判った。このことから、上下異なる方向を向いたRNPが規則的な配置をとり、ウイルス粒子内へ取込まれると考えられた。
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