研究課題/領域番号 |
12J00070
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
林 英一 早稲田大学, アジア太平洋研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 9・30事件 / インドネシア / ジェノサイド / 戦争 / 開発独裁 / 和解 / 暴力 / 共産主義 |
研究概要 |
今年度は夏に東部ジャワの調査村に赴き、1965年にインドネシアで発生した9・30事件以後に虐殺の被害者家族と加害者家族がどのような現実を生きてきたのかを、参与観察を通じて歴史的に考察することに努めた。 その結果、当該調査村では虐殺以後の開発独裁の時代に被害者家族と加害者家族が、単なる共存を意味する「薄い和解」の状態に留めおかれ、いまも虐殺以後の世界を生き続けていることが垣間見えた。 そしてそのようなフィールドで得られた知見を踏まえた上で、ジェノサイドに関する先行研究やインドネシア以外の地域における事例について、詳細な文献調査を行った。 具体的には、台湾の2・28事件(台湾大虐殺)、韓国の保導連盟事件、中国の文化大革命、カンボジアのポル・ポト派による大虐殺、インドネシアによる東ティモール弾圧について情報を収集し、各地域に固有の虐殺の構図を理解するとともに、容共、反共という違いこそあれ、国家権力による政治的または社会的暴力は、大衆を動員した組織的な粛清という意味では同じような形態をとっていたことを確認した。 そうした作業には、今後事例研究を世界史的な同時代性のなかで比較し、理論化する際に役立つという意義があったと思われる。 なお、今年度の研究成果の一端については、早稲田大学アジア研究機構次世代アジアフォーラムにおいて報告し、同機構の『次世代論集』誌上で論文を発表した。 さらに虐殺と並び人類の歴史のなかで繰り返されてきた戦争がもたらす諸問題についても考察を試み、概説書を中央公論新社から刊行した他、2012年度日本植民地研究会春季研究会において日本の極東国際軍事裁判(通称:東京裁判)や対旧BC級戦犯裁判を事例に研究報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2004年以来筆者が頻繁に訪れている調査村での参与観察であるため、すでに信頼関係のあるインフォーマントがおり、身構えて聞き取りをするというよりも、参与観察とでもいうような形で村の歴史を書く作業を進めることができた。また、文献調査によって得られた情報も多く、期待以上の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も今年度と同様にフィールドワークの成果と文献調査の成果をうまく相互活用しながら研究を進めていきたいと考えている。 ただし、今年度は他国の事例について詳細に検討しはじめた結果、やや話を広げすぎたきらいがあるため、今後はインドネシア国内における事例と関連する先行研究に絞り、その内容をより深く細やかに参照しながら調査を遂行していきたい。
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