研究課題
膜内配列切断プロテアーゼ(Intramembrane cleaving proteases ; I-CLiPs)ファミリー分子は、発生分化や脂質代謝調節など幅広い生命現象において重要な機能を担うとともに、その切断活性の異常は様々な病気の発症メカニズムと関連することが知られている。I-CLiPsは、その活性中心部位が脂質二重膜内に存在する親水性ポア構造に面することで、一見起こり得ない「疎水性環境における加水分解」を行っていることが明らかとなっている。しかし、もともと疎水性環境に存在する基質がどのようにI-CLiPsに認識され、どのように親水性環境へとリクルートされるのか、どのように切断されるか等、具体的な基質認識機構には迫れていない。本研究は、I-CLiPsファミリー分子の1つであるSPP (Signal Peptide Peptidase)をターゲットとし、その詳細な基質認識機構を明らかにすることを目的とする。本年度は昨年度に引き続き、SPPの構造解析および生化学的解析に向けた準備を行った。さらに申請者は、アルツハイマー病の発症に寄与すると報告されているI型一回膜貫通蛋白質SorLAを第二のターゲットとした。申請者は昨年度、野生型SorLAのVps10pドメインはアルッハイマー病発症の原因分子と考えられているアミロイドβ(Aβ)と結合する一方、Vps10pドメイン内に家族性アルツハイマー病連鎖変異の1つG511Rを導入すると、Aβと結合できなくなることを見出した。この結果は、G511R変異はSorLAのAβ結合能を失わせ、Aβを分解系へと輸送できなくさせることでアルツハイマー病発症につながる変異である可能性を示すものである。本年度は、本研究の成果を、Science TransIational Medicineに投稿し、再実験を重ねて受理されるに至った。
2: おおむね順調に進展している
SPPの槽造解析および生化学的解析に向けて系の構築を行うとともに、新規のターゲットSorLAの研究を進めている。申請者は採用一年目にしてSorLA内に同定されている家族性アルツハイマー病変異の構造的病因に迫る発見をし、国際学会での発表に至り、さらに二年目においてScience Translational Medicineに受理されたため、おおむね順調に進展していると言える。
SPPのX線結晶構造解析を目指すとともに、生化学的手法を用いたSPPと基質との相互作用様式の理解を目指す。新規ターゲットとして進めているSorLAの研究に関しては、家族性アルツハイマー病変異効果の結果を基に、変異が構造に与える影響の検討など構造学的観点から研究を進め、SorLAとアルツハイマー病の関連についての理解を深めていく。さらに、I-CLiPsファミリー分子の基質認識機構解明に向けた更なるアプローチとして、SPPと同じI-CLiPsファミリー分子の1つγ-secretaseを構成する蛋白質の1つであるnicastrinについてもX線結晶構造解析に向けた準備を進めていく予定である。
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Science Translational Medicine
巻: 6(223) ページ: 223ra20
10.1126/scitranslmed.3007747