前年度に見出した支持表面の化学状態によるグラフェン表面への脂質膜展開領域制御について脂質膜の構造依存性について研究を行った。脂質膜の相転移温度がグラフェン―脂質膜間の相互作用に影響することがわかった。ゲル相の分子を用いた場合、脂質分子内の疎水基が伸張することでグラフェンとの相互作用が強くなりグラフェン表面全体に脂質単分子膜が展開した。グラフェン表面への脂質膜展開から、支持表面の親水性に応じた脂質単分子膜の選択的展開を実現し、支持表面が溶液中でグラフェンの物性に影響を与えていることを示した。前年度の研究と合わせた結果をJ. Phys. Chem. C誌に発表済みである。また一部の結果を筑波で開催された国際会議ACSIN-12にて発表を行い、Best Poster Awardを受賞した。グラフェン表面に生体機能を模擬した構造を構築するため、グラフェン表面への脂質二重膜の形成を行った。強い疎水性を示すグラフェン表面への脂質二重膜形成は困難であるが、脂質膜を支えるリンカー分子をグラフェンエッジに選択的に吸着させることで酸化膜付きシリコン基板上に形成したグラフェン表面に脂質二重膜を形成することに成功した。原子間力顕微鏡による測定結果からグラフェン表面に形成した脂質二重膜は基板表面に形成した場合に比べて強度が低いことがわかった。より相転移温度の高い脂質分子を用いることでグラフェン表面での脂質二重膜の崩壊を抑制することに成功した。リンカー分子の大きさによってグラフェンと脂質二重膜の距離を制御可能であることを示し、グラフェン表面上に形成した脂質二重膜がイオンチャネルなどの膜タンパク質を埋め込み可能な構造であることがわかった。
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