研究課題/領域番号 |
12J00158
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川﨑 智子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 書画会 / 席画 / 仮名垣魯文 / 河鍋暁斎 / 明治 / 近代 |
研究概要 |
平成25年度の目標としては、昨年度・平成24年度に関東地方に滞在して渉猟した史料にもとづき、大きくいうと以下の2点の内容を調査する計画であった。つまり、①事例の分析と関係人物の交友関係の調査。②開業/襲名/回忌イベント、「応需」の精神、「連」の概念など、書画会を支えた社会・慣習の調査。以上2点である。 ①については、本年度に行った最大の実施内容となった。収集した膨大な数の史料の翻刻・精読・データベース化・人物調査を行った。書画会の引札が多数収録されている『諸名家番付帖』『絵美羅集』『明治期広告研究資料』『雅会広告資料』『雪江先生貼雑』、あるいは新聞・雑誌の書画会記事、日記・回顧録中の書画会の思い出、絵画や石碑に記されている書画会の様子など、書画会事例を開催年月日・会の名称・会主・開催場所・参加者・備考といった項目を設けて一覧表を作成した。この作業には大変に労力を費やす結果となった。引札に関しては1枚(1事例)につき1000人を超える参加者が関わるケースが多数あり、重要事例に関しては参加者として記されている人物の職業・階層、交友関係なども調査したからである。しかし、データの集積作業を終えたことは非常に有益であった。 また上記の作業を通じて、書画会そのもの、あるいは書画会に付きものの席上制作に対する市井の人々の認識の変化が見て取れる史料が複数見つかった。前近代的な書画会の文化を否定し、高尚な「美術」を賞賛する、そして書画会という文化現象を忘れていく、という人々の意識が形成されていく過程を示す史料であり、大きな収穫であるといえる。昭和前期までの書画会の事例収集と人々の認識調査である。『朝日新聞』『読売新聞』などを始めとする新聞、『書画骨董雑誌』などの雑誌、書画会に関わった人物の回顧録などを読み込み、計画以上の調査ができた。 ②に関しては関連文献を読み込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膨大な史料の整理を通して「近代日本美術史」を実態レベルで考察する、という研究の目的を達成する上で、非常に重要となる史料を複数見つけ、先行研究を考慮しても、よりダイナミックで有意義なものとなると考えられる見通しがついたことから。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の構想では、明治10年代前半のみを研究対象としていたが、本年に行った史料整理を通じてもっと長いスパンで考察することにした。美術展覧会と書画会とを比べて後者を否定するような市井の人々の投書文や、書画会には付きものの席上制作を否定するような新聞記事など、「美術」意識の醸成を示す史料が複数見つかった。これまで意欲的に調査してきた明治10年代は、近代以降書画会が隆盛を誇った時期と位置づけ、戦前までを考察とする際の比較対象に設定することとした。書画会・席上制作を巡る人々の認識の変化を示した重要な史料を柱とし、各時代の重要な事例と重要な人物、書画会を支えてきた慣習の変遷などを絡めて「近代における書画会の史的考察」を諭ずることにした。「近代日本美術史」を実態レベルで考察する、という前述の目標に合致するだろう。また先行研究を考慮しても、よりダイナミックで有意義なものとなると考えられる。また、本年度に整理した情報をもとに、現在執筆中の論文を提出し、新たに発表するべき内容も見つかっているので、採択第3年次は積極的な成果発表を行う。
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