・学会報告「配偶子提供、代理懐胎における『子の福祉』:AID出生者の事例から」日本生命倫理学会第24会年次大会(2012年10月27日、立命館大学) AIDにより出生した人にインタビュー調査を行い、調査協力者の苦悩の構造を分析した。結果、(1)告知直後に留まらない長期的視点の必要性、(2)配偶者や子どもへの影響、そのことで生じ得るAID出生者の心的負担、(3)提供者への複雑な感情、そこから生じ得る葛藤、(4)AIDそのものを否定的に捉える事態が生じることもあり、そこから生じる苦悩、(5)境遇受容圧力(他者から、AIDによって出生したという自身の境遇を受け入れるよう強く促されること)から生じ得る負担、などが明らかになった。以上の点は、AID出生者に対し、早期に告知を行い、提供者情報開示制度を整えれば問題が解決されると捉えられている従来の議論に対し、一石を投じることに繋がる。 ・論文「不妊治療を経て養子縁組をした患者の経験:特別養子縁組成立までのプロセスに着目して」『保健医療社会学論集』第23巻第2号 ここでは、特別養子縁組が成立するまでの障害についてまとめた。結果、(1)特別養子縁組を選択するにあたり、配偶者や夫婦の両親に反対される場合もあること、(2)養子を迎えようと斡旋機関に申し込んだとしても、断られる可能性があること、(3)養子を迎えた後、養子によるいわゆる「試し行動」(敢えて養親の嫌がるようなことを執拗に行い、「新しい親」がどこまで自分を受け入れるか試すような行動)に直面する場合もあること、(4}特別養子縁組成立の不確実性(家庭裁判所の審判が成立するには、原則、「実親」の同意が必要であること、など)に伴う葛藤を経験する場合もあること、などが明らかになった。以上の点は、不妊治療から特別養子縁組を選択した「患者」の経験に関する一つのモデルを提示している。
|