【背景】統合失調症は長期的な維持療法が必要である。しかし、維持療法に関する研究は少なく、急性期治療と同量の薬剤を継続すべきか、減量が可能かで意見が分かれている。また、高齢患者は抗精神病薬に対する感受性が高く副作用が出現しやすく、結果として平均寿命は健常人より約15年間短い。さらに、認知症に対する抗精神病薬の使用も増え死亡率の増加が社会的問題となっている。故に高齢患者の維持療法に用いる抗精神病薬はより低量であることが推測され、遮断されるべきドパミンD2受容体の割合は壮年期(60から80%)より低いことが想像される。また、高齢統合失調症患者に対しより低用量で治療するべきであると推奨されている。しかし、その根拠を実証した報告は現時点では存在しない。 【目的と方法】高齢統合失調症患者における適正な維持用量とドパミン受容体占拠率を目指して抗精神病薬減量に伴うドパミン受容体占有率の変化と治療反応の関係を明らかにするためにPET研究を行った。具体的には安定している50才以上の患者に対し、毎週、抗精神病薬の減量を徐々に行い初期用量の60%を目指す。減量前後で放射線リガンド(ラクロプライド)を用いたPETと認知機能検査を施行し、その後、定期的に24週間経過観察している。現在、参加症例数は31例である。中間解析では、高齢統合失調症における抗精神病薬の減量により、ドパミンD2受容体占拠率の低下と注意機能障害の改善が認められ、ドパミンD2受容体の利用能と注意機能に相関が認められた。 【結論】本研究の結果は、統合失調症の認知機能障害に有効な治療法が存在しない現在、抗精神病薬の減量が認知機能を改善する可能性を示唆した。本研究の結果は、薬剤への過敏性が亢進している高齢統合失調症患者に対する適切な抗精神病薬の治療域を設定するために有用である。
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