研究課題/領域番号 |
12J00277
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂本 陽介 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究院, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 大気化学 / ハロゲン / 不均一反応 / 質量分析 / 海洋境界層 |
研究概要 |
筆者は不均一反応を通じた定性的なハロゲンの生成、及び大気への放出メカニズムの解明と、気液相間の取り込み係数、放出係数など、定量的なパラメータの決定を行い、大気化学への定量的な寄与を見積もることを最終的な研究目標としている。その中で一年目の研究実施計画の通りオゾンとヨウ素イオンの不均一反応からのヨウ素の気相放出について、筆者が開発した不均一反応測定用の電子衝突イオン化質量分析計により測定し、反応メカニズムについての研究を行った。更に、鉄イオンが共存する際に、オゾンとヨウ素イオンの不均一反応によるヨウ素の放出が大幅に増加する事を初めて確認し、そのメカニズムの解明を行った。この鉄イオン共存時におけるヨウ素の放出の増加は、学会において発表され、また、学術雑誌に論文として投稿し、採用が決定した。 負イオン化学イオン化質量分析計は、酸性の置換基やハロゲンなどの電気陰性度の高い原子を含む分子を選択的に高感度で測定する事の出来る測定手法である。したがって、筆者のハロゲン不均一反応の研究へ応用する事により詳細な研究ができると予想されるため、筆者の研究へ負イオン化学イオン化法を新たに導入する事を決定した。ハロゲン種の測定の前準備として装置の特性を理解するため、これまで多くの研究がなされており理解が進んでいるエチレンのオゾン分解反応の生成物の分析を参照実験として行った。ギ酸やハイドロペロキシメチルホルメート等のこれまで報告例のある酸性の置換基を持つ化合物が検出された。更に、クリーギー中間体をユニットとしたオリゴマーが検出された。このクリーギー中間体をユニットとするオリゴマーの形成はこれまでに予想されていたが、実際に気相成分として検出した例はなく、本研究の結果はクリーギー中間体の反応性の理解に貢献すると考えられる。この結果は学会において発表され、現在学術雑誌への論文投稿を準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、(1)オゾン-ヨウ化物イオン反応系からのヨウ素分子生成に対する鉄イオンの促進効果の実証、(2)不均一反応への負イオン化学イオン化質量分析計の応用を目指した参照実験を主に行った。(1)では、これまで全く報告例のない、鉄イオンによるヨウ素放出の促進効果を初めて発見するとともに、その機構解明を行った。また(2)では、参照実験として用いたエチレン-オゾンの気相反応系において、オリゴマー形成を経由した二次エアロゾル生成を新たに見いだした。これらの研究成果は、投稿予定を含む3編の学術論文と、国際学会を含む8件の学会発表にまとめられている。以上より、今年度の研究は、いずれも当初予想を大きく上回る進展を見せたと評価することができる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はハロゲン-オゾン不均一反応の実際の大気への影響の見積もりのために、オゾンのハロゲンイオンを含む溶液に対する取り込み係数やハロゲンの放出係数について濡れ壁反応管やエアロゾル反応管を用いて測定を行う。また、ハロゲンの検出に有効であると考えられる負イオン化学イオン化質量分析計の開発及び実験への応用を行う。 二年次においては、オゾンと臭素イオンの反応による臭素の気相への放出について、定量的な測定を行い、大気への影響、メカニズムの考察を行っていく。実験で得られたデータを基に、反応メカニズムや実大気への影響を纏め、学会や学術雑誌において発表を行う予定である。
|