研究課題/領域番号 |
12J00326
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下村 周太郎 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 中世国家 / 朝廷 / 鎌倉幕府 / 天人相関説 / 天変地異 / 徳政 / 祈祷 / 東アジア |
研究概要 |
本研究は、鎌倉幕府・京都朝廷をめぐる自他認識・社会認識の多角的・複眼的な考察を通して、同時代人のイデオロギーや観念といったいわば「心性」に着目し、近代国家観を自覚的に相対化する地点から、日本中世の国家構造を再解明することを目的とする。本年度は、支配イデオロギーおよびアイデンティティという観点から幕府や朝廷の国家論上の位置づけを考究することを課題とした。 具体的には、前近代東アジアという時間的・空間的脈絡の中で、中世日本における〈国家〉の定義や特質を考究することを目標に、中世日本の京都朝廷における〈国家〉イデオロギーとしての天人相関説の存在とその特徴を検討し、中世日本の〈国家〉の定義を試論した。 古代中国に発生した天人相関説とは、天意の顕現である祥瑞・災異という非常時の発生を、人の政治(人事)の善悪に関連付けて把握するイデオロギーである。この天人相関説に基づき人事を担う君臣組織こそ、前近代東アジア世界において〈国家〉と概念化しうる権力体組織の基底的要件と言える。 従来、中世前期の京都朝廷では天人相関説は1委小化するなどとして消極的に評価されてきたが、特に天変に関わって天人相関説由来のイデオロギーが存在し続けていたことが確認された。すなわち、天変が重大視された点を中世的特徴として把握した上で、前近代東アジアという時間的・空間的脈絡の中で中世前期の京都朝廷を〈国家〉と評価することが可能となる。このイデオロギーのもと、天変などに際して多様な政治対応が志向・実践されたが、それらは祈祷と徳政とで構成されていたと構造的に把握しうる。 上記の検討を踏まえ、中世日本の〈国家〉モデルを「天変地異などの発生を究極的には君主の不徳の悪政に起因する天遣と捉え、天意に応えるために祈祷と徳政という二様の人事を志向・実践する、君主とそれを輔弼する臣下により構成された権力体組織」と総括した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都朝廷における天人相関説の存在と中世的特徴を明らかにし、中世の〈国家〉モデルを措定し、鎌倉幕府の位置付けを展望できたことは、支配イデオロギーおよびアイデンティティという観点から鎌倉幕府や京都朝廷の国家論上の位置づけを考究するという課題にある程度アプローチできたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
鎌倉幕府および京都朝廷の支配イデオロギーや相互自他認識について、引き続き解明を進めるとともに、寺社や荘園に関する史料の収集・分析も本格的に開始し、広く幕府・朝廷をめぐる社会認識やコスモロジーについても、東アジア世界を視野に入れながら検討を行う。そのことによって、統合的契機と分裂的契機とを止揚しつつ、従来にない多角的で立体的な日本中世の国家構造を解明し、前近代東アジアという時間的・空間的脈絡にそくした国家論の脱構築を達成するための材料を豊富化したい。
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