カタユウレイボヤの32細胞期の転写調節機構の全体をシステム的に理解するために研究を行った。32細胞期の植物極側に発現している全27種の転写調節遺伝子のうち7種類の遺伝子の調節機構の解析を終了した。また、32細胞期の動物極側における転写調節機構をシステム的に理解したとともに、コンピュータプログラムを用いたモデル構築が完了した。 32細胞期の動物極側の転写調節機構では、二重の制御機構が働いており、適切な割球のみを神経に誘導し、残りの割球を神経に誘導させない機構が明らかになった。神経マーカー遺伝子であるOtxとNoda1の発現を誘導するFGFシグナルと抑制するEhrinA-dシグナルが互いに逆向きの勾配を作ることで、ERKシグナルの鋭い勾配が形成される。 これに加えて、シス調節レベルで、BMPシグナルがFGFシグナルの応答能を抑制することで、微量なFGFシグナルでは神経誘導機構が活性化できない理由が説明できた。つまり、適切な閾値を設定するために、BMPシグナルによる抑制エレメントとFGFシグナルによる活性化エレメントが適切な数だけ存在することが必要であることが明らかになった。 さらに、コンピュータプログラムを利用して、理論上存在可能な全調節経路から実験結果を説明できる調節モデルを構築するための研究を進めた。コンピュータプログラムを作成し、32細胞期の動物極側において理論上存在可能な4294967296モデルの調節経路から、理論上存在できる調節経路を4モデルにまで絞り込んだ。コンピュータによって求められたモデルが示す調節経路は、実験的に証明した調節機構と同様の経路を示していた。また、得られたモデルから、転写調節のための論理式の構築を行った。これにより、発現が活性状態である条件と、発現が不活性状態である条件が算出できた。
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