研究概要 |
小笠原諸島父島及び母島において、アカガシラカラスバトの糞サンプルの採取を毎月行った。採取された糞サンプルからDNAを抽出し、葉緑体trnLP6loop領域をPCR増幅した。得られたPCR産物について、次世代シーケンサー454GSjr.(Roche)を用いたシーケンスを行い、糞に含まれる植物の塩基配列を決定した。得られた配列を、申請者が自ら新たに作成した種子植物の塩基配列データベースと照合することにより、植物の同定を行った。次世代シーケンスにより、約38,000の塩基配列が得られ、このうち約90%の配列に対して、高確率で植物の同定ができた。DNAバーコーディングを用いた糞分析の結果は、これまで行われてきた顕微鏡分析による結果よりも、はるかに解像度の高いものであった。クスノキ科やアコウザンショウなど、種子が大きく硬い種皮を持つ植物は、DNAバーコーディングと顕微鏡分析両方で検出されたが、シマグワ、イチジク属など、小さく柔らかい種子を持つ植物は、DNAバーコーディングのみで、高頻度で検出される傾向にあった。今回の結果から、アカガシラカラスバトが、特定の在来種を選択的に採食する一方、外来種に依存している可能性が示唆された。また、父島と母島では、食物構成が異なる可能性が示唆された。今回の結果は、East Asian Botany Symposium 2012,日本鳥学会2012年度大会(100周年記念大会)、第60回日本生態学会において発表し、現在論文を準備中である。本研究は、最新の文政生物学的手法を、野生動物の食性解析に活用するという画期的なものである。従来の食性解析手法では特定困難であった多数の食物を特定できたという点において、大きな成果があったといえる。また、本研究の成果は、小笠原諸島において積極的に行われている外来種駆除が、絶滅危惧鳥類の採食環境に悪影響を及ぼす可能性を示唆するものであり、今後の外来種駆除及び固有植生の回復事業の方針を決定する上で、重要な情報を提供したといえる。
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