研究の目的である、光学活性なイリジウム二核錯体を触媒とするキノキサリン類の不斉水素化反応におけるアミン添加効果の詳細を明らかにすることに関しては充分に達成できたと言える。 具体的には、キノキサリンあるいはアミン添加剤と触媒であるイリジウム二核錯体との当量反応と水素雰囲気下での経時変化の測定、反応系中で生じる種々のイリジウム錯体の同定、単離およびその構造決定などの種々の実験を行った。その結果、本触媒反応においては、2つの異なる触媒活性種として、基質が配位したモノヒドリド錯体、およびアミンが配位したジヒドリド錯体が存在していることを明らかとした。それらの活性種は系中で互いに平衡状態にあり、それぞれが内圏機構、および外圏機構という異なるメカニズムで基質を段階的に還元することで、本水素化反応を効率的に進行させていることが明らかとなった。 近年、含窒素芳香族化合物の不斉水素化反応の分野では非常に多くの報告がなされているが、本研究のように反応機構の解明に深く踏み込み研究を行った例はほとんどなく、そこから得られた知見は当該分野の発展に大きく貢献するものであると言える。実際にその知見を活かして、基質とハロゲン化水素酸の塩を形成させることで、反応にともなって生じるアミン生成物による反応の阻害を阻止し、これまで達成が困難であったイソキノリンやピリジンの不斉水素化反応を達成できたことは、大きな進歩であり、環境調和性の高い光学活性環状アミン類の新規合成法の開発に繋がる研究成果であると考えている。
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