研究課題/領域番号 |
12J00493
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村中 由美子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ユルスナール |
研究概要 |
本研究では、作家マルグリット・ユルスナールの蔵書を分析し、この作家が、それらの読書から得た美術や芸術をめぐる言説を自らの文学作品にどのように取り込んだのかを検討してきた。今年度は、ユルスナールの蔵書を管理しているプティット・プレザンス・トラスト(米国メイン州)およびこの作家の作品の草稿を所蔵しているハーヴァード大学ハウトン図書館(同マサチューセッツ州)にて資料調査を行った。この調査に先立ち、まず既に出版されているユルスナールの蔵書目録を用いて、6876冊の蔵書から、造形美術および広い意味での芸術に関連する約100冊を選んだ。これら、閲覧したユルスナール自身の蔵書のなかで、オスカー・ワイルド『深淵より』とユリウス・エヴォラ『近代社会に対する反乱』にはユルスナール自身が引いたと思われる下線、メモ等が数多く残されており、ユルスナールの作品執筆と読書との関係を考える上で貴重な一次資料が得られた。特に、ユルスナールはワイルド論を雑誌で発表しているため(初版1929年、書き直した上での再出版1982年)、その異本研究との関連でも重要な発見があった。この研究成果の一部からは、平成25年3月にベルギー・ルーヴァン=ラ=ヌーヴで開催された、生成研究における若手研究者の国際コロックにて、「読書におけるエクリチュールの核:オスカー・ワイルド『深淵より』を読むマルグリット・ユルスナール」と題するフランス語口頭発表を行うことができた。 作家の蔵書研究は、文学作品がどのように生まれるのかを研究する生成研究といわれる分野のなかの手法のひとつとして注目されている研究であり、ヴァレリーやジッド等の作家について研究が進んでいるが、ユルスナールについては国内外でもまだあまり研究されていない。よって、今年度の調査で得られた一次資料および分析は、ユルスナールという個別作家研究に資するのみならず、生成研究においても重要な価値を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)本研究の重要なコーパスをなすユルスナールの蔵書について、今年度アメリカでの調査を予定していた分についてほぼ閲覧できたこと、2)美術の側面において、専門のセミナーに参加し視野を広げていること、3)研究の成果を国際コロックで発表していること、以上3つの理由によって研究の進捗状況には問題がなく、その進展は当初の計画以上であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度の調査で得られたユルスナールの蔵書・書簡・草稿を中心とする一次資料を基に、ユルスナールの蔵書と彼女の文学創作との関係を分析していく。具体的には、美術書を中心とするユルスナールの読書の特徴と時期を明らかにしつつ、それらがユルスナールのそれぞれの作品へと結実してゆく様態を分析する。この作業のためには、ユルスナールの作品の読解と蔵書の内容を照らし合わせると同時に、ユルスナールが1920-1930年代を中心に文学雑誌に発表した美術に関するエッセイの初版にあたる必要があり、この過程はフランス国立図書館で行う。 また、本研究のコーパスの一部であるユルスナールの蔵書に残されたデッサンに関して、引き続きハーヴァード大学ハウトン図書館で調査を行う。
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