特定の他者との共感的な関係性がASD児の多機能の発達を促し,障碍特性の軽減につながるとする今日の発達心理学における知見と, ASD児への臨床心理学的な援助の双方を照らし合わせる中で浮かぶ“Inter-subjectivity”という概念を軸とした援助の“在り方”を検討するために,前言語期のASD児とその養育者に介入を行い,その介入風景のビデオデータを収集した。前年度までに実施したビデオ分析にデータを追加すると共に,条件を統制するために対象児を6名に選定し,介入のビデオ分析を行った。その結果,ASD児の行動では「一人遊び」状態の減少、「子ども主導型共有」状態・「視線」を向ける行動・「情動共有」行動の増加が有意な値で生じた。またその変化に先んじて「道具的使用度(高)」状態が生起していた。これらのことからASD児との関係性の発達において,“道具的な関係性”の発達が,情緒的な関係性に先んじて生じることが, 他者性への強い反応性と防衛を有するASD児との関係発達に有効であるかもしれないということが示唆された。 またこれらの変化に並行して「象徴機能の使用」場面・「自発的身振り」の増加や,「自発的発声行動」・「模倣的発声行動」・「自発的発話行動」の増加傾向が生じていた。 これら結果から,Inter-subjectivityを意識したASD児との関わりは,“間主観的把握”や“成り込み”によって幼い子どもの主体性を補いながらやりとりを重ねていきつつ,理解を深めるという“在り方”であり,その“在り方”は自らの主体性を相手に譲る形から,子どもの主体性の発達に沿って自らの主体性を徐々に発揮していくという変容が生じるものであった。またその在り方は,相手の“今,ここで”の内的状態を正確に理解する側面だけでなく,“今,ここから”の主体性の可能性領域を付与するという相反する志向性を有することが示唆された。
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