前年度までの研究成果として、10族遷移金属触媒を用いたテトラフルオロエチレンと有機ホウ素化合物との無塩基カップリング反応の開発に成功している。この手法はトリフルオロスチレン誘導体をテトラフルオロエチレンから一段階で合成できる有力な手法である。しかし一方、テトラフルオロエチレンを出発原料とし、より複雑な構造を有する含フッ素化合物を合成しようとした場合には、カップリング反応は適していなかった。 このような背景の下、平成26年度にはテトラフルオロエチレンと有機ホウ素化合物、ヨードアレーンなどを原料とした、テトラフルオロエチレン架橋構造を有する化合物の新規合成法の開発に成功した。反応は一価の銅錯体およびフェナントロリンン配位子の存在下、40度から60度といった穏やかな条件下にて効率よく進行した。また、反応の鍵中間体となるフルオロアルキル銅錯体については、X線結晶構造解析およびNMR測定による構造解析を行った。 この手法を用いることで、テトラフルオロエチレン架橋構造を有する化合物をはじめとした多様な含フッ素化合物を容易に合成することが可能である。テトラフルオロエチレン架橋構造は生理活性物質や含フッ素モノマー、液晶化合物などの鍵構造として注目されていたが、効率的な合成法が存在しないことが大きな課題であった。本研究で開発した手法を用いれば、高速応答・低電圧駆動などを実現する次世代の液晶材料となりうる液晶化合物を、市販の試薬から6段階ときわめて容易に合成できることを明らかとした。
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