研究課題
本研究では、脂質代謝制御に重要なペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α(PPARα)を活性化させたマウス血中メタボローム解析により見出され、血糖値上昇抑制効果に重要な代謝物と考えられるリゾリン脂質に着目し、リゾリン脂質の生合成制御及びリゾリン脂質の糖取り込み作用による糖代謝改善のメカニズム解明を目的とした。まず、リゾリン脂質定量系の構築を、液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー(LC-MS)を用いて分析条件検討を行い、高感度な定量系を確立することに成功した。PPARαは主に肝臓に発現しているため、肝臓が血中のリゾリン脂質の主たる供給源と考えられる。そこで、マウス肝臓初代培養細胞にPPARα活性化剤を添加し、培地中に放出されるリゾリン脂質を先に示したLC-MSを用いた方法で定量した。その結果、活性化剤の添加濃度依存的に細胞から放出されるリゾリン脂質量が増加することを見出した。また、リゾリン脂質を合成する酵素であるボスホリパーゼAについても、活性化剤添加により発現量が有意に増加することを見出した。次に、上記で検討した作用機序が動物個体レベルでも機能していることを明らかにするため、PPARα活性化剤を投与したマウスを用いて実験を行った。活性化剤投与によるリゾリン脂質の増加量が肝臓及び血中で同程度であることを見出した。また、肝臓でのボスホリパーゼAの発現量は活性化剤投与群マウスにおいて顕著に増加していることを見出した。さらに、肥満状態が悪化するに従い、血中リゾリン脂質濃度が低下し、両者の間には負の相関があることを見出した。以上の知見から、リゾリン脂質の主要供給源は肝臓であり、血中リゾリン脂質は血糖値の上昇抑制に重要な因子であることが示唆された。さらに、インスリン抵抗性が生じた脂肪細胞にリゾリン脂質を添加することで糖取り込み能が回復する予備実験結果を得ている。この現象について現在詳細を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究実施計画に挙げた「リゾリン脂質の検出・定量系の確立」、「培養細胞系における検討」及び「肥満糖尿病モデルマウスに対するPPARαリガンド投与実験」の全ての項目において、おおむね当初の予定通りに実験が進行し、各項目において要となる実験結果を既に本年度中に得ることができた。
今後は、リゾリン脂質の供給源と考えられる肝臓及び作用組織である脂肪組織双方においてリゾリン脂質の生合成又は作用メカニズムを詳細に検討する。具体的には、肝臓においては、PPARαノックアウトマウスやボスホリパーゼAノックダウンマウス等を用いた実験を行い、リゾリン脂質の合成にはこれらの因子が重要であることを示す。また、脂肪組織においては、インスリン抵抗性を生じた状態でリゾリン脂質を添加することで糖取り込み能が回復する現象の詳細なメカニズムについて解明する。
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