研究課題/領域番号 |
12J00522
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野村 亘 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PP)
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キーワード | メチルグリオキサール / シグナル伝達 |
研究概要 |
解糖系代謝物であるメチルグリオキサール(MG)は、これまでに糖尿病患者の血中MGレベルが高いことから、糖尿病との関連が指摘されてきた。しかしながらMGと糖尿病の因果関係についてはほとんど分かっていない。インスリン抵抗性は2型糖尿病の病態の一つであり、IRS1(インスリン受容体基質)のSer/Thr残基のリン酸化の充進はインスリン抵抗性の原因となり得る。 昨年度までに、MGがインスリンシグナル伝達経路におけるmTORC2シグナルを活性化することを見いだしてきた。インスリンによるインスリンシグナル伝達経路の活性化は下流へとシグナルを伝える一方で、負のフィードバック機構を活性化し、IRS1のSer/Thr残基のリン酸化を充進することでシグナルを遮断する。そこで本年度は、MGと糖尿病の関係について、MGによるインスリンシグナル伝達経路の負のフィードバック機構の活性化を介したインスリン抵抗性の惹起が関与する可能性について検討した。具体的には、IRS1のリン酸化レベルを負のフィードバック機構活性化の指標にして解析した結果、MGはIRS1のSer残基(Ser307、Ser632)のリン酸化を充進し、インスリン抵抗性様の作用を引き起こすことを見出した。 一方、これまでにMGは酵母TORC2-Pkc1シグナルを活性化することも見出している。そこで、TORC2-Pkc1シグナル制御機構の詳細を明らかにする目的で、Pkc1変異体を用いてPkc1のTORC2リン酸化サイトであるThr1125、Ser1143のリン酸化レベルを指標にして解析を行った。その結果、MGによるTORC2-Pkc1シグナルの活性化には、Pkc1と低分子量GタンパクであるRho1との相互作用に必要なC1領域、HR1領域が必要であることを見出し、TORC2-Pkc1シグナルに及ぼすRho1の関与を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メチルグリオキサールと糖尿病の関係において、インスリンシグナル伝達経路の負のフィードバック機構に着目し、メチルグリオキサールがIRS1のSer残基のリン酸化を充進し、インスリン抵抗性用の作用を示すことを明らかにできた。また、酵母細胞を用いた解析で、TORC2-Pkc1シグナルにPkc1のC1領域、HR1領域が必要であることを明らかにするとともに、TORC2-Pkc1シグナルの調節に低分子量Gタンパク質であるRho1が関与することを見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析により、メチルグリオキサールがIRS1のSer残基のリン酸化を充進することを見出したが、このリン酸化の充進が、メチルグリオキサールによるmTORC2シグナルの活性化を介するものであるかどうか、検討が必要であるとともに、今後は動物個体を用いた解析もあわせて行う予定である。また、TORC2制御機構については、本年度に酵母細胞を用いてRho1の関与を見出したが、引き続きスクリーニングにより、新規TORC2制御因子の取得を試みる。
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