本年度は主に乱流電場中を運動する高速電子からの放射スペクトルについて研究した。本研究課題の対象であるガンマ線バーストの放射機構はまだ分かっておらず、その解明はガンマ線バーストの物理機構の理解のために非常に重要である。ガンマ線バーストは観測的事実から相対論的な流れ(ジェット)をもっていることが分かっている。時間的に非一様なジェットはその内部で衝撃波を起こし、その領域でエネルギーを得た電子からの放射がガンマ線バーストの放射を担っていると考えられている。しかし観測されるスペクトルは従来の放射理論では再現できない形状をもっている。つまりこのモデルの大枠が正しいとすると放射理論を再考する必要があることになる。 ガンマ線バーストで期待される衝撃波領域の物理量(ジェットの速度やプラズマのすう密度)においては衝撃波近傍でラングミュア波と呼ばれる縦波の静電プラズマ波が励起され、乱流場を形成する可能性があることが近年の研究で明らかになってきた。従来の放射理論はこの乱流電場の存在は考慮されていない。そこで本研究ではこの乱流電場を考慮した放射の計算を行った。計算は数値的に第一原理的な手法を用いて行った。具体的にはフーリエモードの重ね合わせで乱流場を生成し、その中に相対論的なエネルギーを持った電子を注入する。運動方程式を解くことで得た電子の運動の情報を用いて電磁波の基本式であるリエナール=ヴィーヒェルトポテンシャルを用いて放射スペクトルを計算した。結果としてピーク振動数よりも低い振動数領域のスペクトル指数は従来よりも豊かなバラエティをもつことが明らかになった。また、それらの特徴が現れるパラメータはガンマ線バーストで期待できる値であることからガンマ線バーストの放射スペクトルを説明する放射機構の候補の一つとして有望であると言う結果が得られた。
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