研究概要 |
曲がった空間上での非平衡Green関数法を用いて熱応答の定式化を行った.熱応答は電磁応答と並んで重要な物性であるが,電磁応答ほど量子力学的な理解が進んでいないと思われる.ここで応答とは,電気伝導度などの流れの応答と,分極や磁化などの変位応答を意味する,流れの応答である熱伝導度は,これまでBoltzmannの半古典論で取り扱われてきたが,近年異常Hall効果に対する非弾性散乱の効果を調べる目的で熱Hall伝導度が測定されており[1],不純物のみならずフォノンやマグノンとの相互作用を系統的に取り入れることができる量子力学的な枠組みが必要とされている.一方変位応答についても,最近トポロジカル超伝導体において温度勾配と角速度が結合し,たとえば角速度によって熱分極が誘起されるという理論が提案されている[2].熱伝導度は重力ポテンシャルの勾配に対する比例係数として定式化されている[3]が,より広く熱応答が重力理論によって系統的に記述できる可能性を示唆するものである. 具体的には電磁場も重力場もゲージ対称性をもっていることに着目し,電磁場のゲージ対称性を保ったまま非平衡Green関数を摂動展開する手法[4]を重力場に拡張することを試みた.この定式化は有限温度で高次の摂動まで系統的に計算することができ,不純物などを取り入れることができる,最も一般的な手法であると考えた,位相空間の量子力学的拡張ともいえるWigner表示を用いると,Moyal積と呼ばれる非可換積が自然に定義され,力学変数である運動量にPeierlsの置き換えを施すことで電磁場が誘導された[4].Wigner表示を拡張し,Poincare代数を正しく再現するようにMoyal積を定義し,Cartan形式におけるvielbeinとスピン接続を加えることで捩率とRiemannテンソルを誘導することができる.これらを外場と見なすことにより諸々の応答を計算することができるが,特に振率の時間成分が温度勾配を記述することに着目し,清浄極限で熱伝導度の計算を行った. 【参考文献】 [1]Y.Shiomi et al., Phys. Rev. B81, 054414(2010). [2]K.Nomura et al., Phys. Rev. Lett. 108, 026802(2012). [3]T.Qin et al., Phys. Rev. Lett. 107, 236601(2011). [4]S.Onoda et al., Prog. Theor. Phys. 116, 61(2006).
|
今後の研究の推進方策 |
[2]で現れた熱分極や熱磁化の定式化を試みるほか,変形量子化によってMoyal積を厳密に構成し,高次の応答の定式化や非平衡特有の現象の探索を試みる.RiemannテンソルがLorentz変換の生成子,特にスピンと結合することから,スピン輸送についても何らかの知見が得られると期待している.またこれらの物性に対する弾性,非弾性散乱の効果も明らかにしたい.
|