研究課題/領域番号 |
12J00620
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 はるか 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | リテラシー / アメリカ合衆国 / 多文化教材 / 読むことの教育 / 文学作品を用いた指導 / 学力保障 |
研究概要 |
今年度は、現代アメリカ合衆国において、リテラシー教育研究を推進しているキャサリン・スノー(CatherineSnow、1945-)によるリテラシー教育に関する理論とその理論にもとづく実践を検討した。スノーのリテラシー教育論に注目する理由は、アメリカにおける補償教育が抱える課題を克服する方途を、彼女が追究していたためである。補償教育とは、社会・経済・文化的に不利な生活環境の中に生まれ育っている子どもたちを対象として、彼らの教育的環境を改善・向上させることをめざした教育プログラムである。しかしながら、その理念とは裏腹に、子どもたちを取り巻く教育環境を改善できていないと指摘され、その解決が課題とされてきた。そこで、スノーがどのような理論と実践でこの課題を乗り越えようと企図していたのかを明らかにすることをめざし、以下2つの研究を行った。 (1)キャサリン・スノーによる読むことの教育理論の検討 今日、「リテラシー」という言葉は多義的であり、さまざまな論者がそれぞれの立場から「リテラシー」という用語を使用している。そのため、スノーのリテラシー教育論を論じるにあたって、まずスノーの主張するリテラシーの中味を整理しておく必要がある。そこでまず、スノーによるリテラシー概念の内実を明らかにするために、スノーが議長を務めた「リーディングの困難性の予防に関する委員会(Committee on the Prevention of Reading Difficulties in Young Children)」の報告書を中心に文献研究を行った。本委員会は、米国においてフォニックスを強調する立場とホール・ランゲージを主張する立場の間で行われた、読むことに関する教育論争を終結させることを目的として設置されたものである。スノーらの取り組みが、この論争の論点をどのように引き取り、どのように終結させようとしていたのかを検討し、本委員会の取り組みの成果と課題を明らかにすることによって、スノーの主張するリテラシー概念の内実を明らかにした。 (2)米国における読みの指導のための教材集『ヴォイシズ・リーディング』の検討 つぎに、初等教育段階におけるリテラシー教育実践の内実を明らかにするために、スノーが編集に携わった教材集『ヴォイシズ・リーディング(Voices Reading)』を検討した。検討の結果、本教材集において、フォニックスや文法事項などの認知面での発達と、子どもたちの社会面・情緒面での発達を実現をめざしていたことが明らかとなった。そしてこのことによって、これまで米国のリテラシー教育実践ににおいて指摘されてきた認知面と社会・情緒面の発達に関する課題を乗り越えることが意図されていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画通り、キャサリン・スノーによるリテラシー研究の理論面と実践面についての研究を推進するため、スノーが議長を務めた委員会の報告書を用いた文献研究と、スノーが作成に携わった教材集の検討を行った。今後フィールド調査にもとづいて授業実践の検討を行うことで、より具体的に、スノーのめざすリテラシー教育の在り方を検討することができると考えている。そのため、研究計画は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「ヴォイシズ・リーディング』を用いた授業における学力保障についての検討を行う。多文化教材を用いてリテラシー教育を行うことの意義が認められる一方で、多文化教材として使用されている文学作品は、子どもたちの読み書き能力や理解力の低下を招く原因であるとも指摘されてきた。なぜなら、多文化教材で使用されている文章には単純な単語しか使用されておらず、またその単語も文化特有のものであるため、子どもたちの知的なエネルギーが無駄に使用されてしまうためである。この課題を検討するために、『ヴォイシズ・リーディング』で獲得される学力の質を明示する必要があり、そのためにも各州のスタンダードとの関連を明らかにしながら、『ヴォイシズ・リーディング』の学力水準を提示することが求められる。
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