研究課題/領域番号 |
12J00620
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 はるか 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | リテラシー / アメリカ合衆国 / 読むことの教育 / 文学作品を用いた指導 / 学力保障 |
研究概要 |
本研究の目的は、多様な文化的背景を持つ子どもたちの「読む力」を保障するために、現代アメリカ合衆国において蓄積されてきた教育理論と実践を明らかにすることにある。アメリカにおいては、1960年代より補償教育(Compensatory Education)が行われてきた。補償教育では、貧困の原因を個人の能力や努力の問題だけに求めるのではなく、教育・就労の機会が人種差別や閉鎖的な教育・雇用環境等によって制限されてきた事実にも求めている。そして「償い」の措置をとることによって、アメリカ国内における不平等の解消をめざしている。しかしながら、その理念とは裏腹に、アメリカにおける補償教育は子どもたちを取り巻く教育環境を改善できていないとも指摘されている。この問題に対してアプローチしてきたキャサリン・スノー(Catherine Snow)は、特に「読むこと」の側面で蓄積されてきた研究成果を整理するとともに、その成果を活かした教材を作成している。そこで本研究では、スノーによる言語教育に関する理論と実践に着目し、アメリカにおける補償教育が抱える課題を克服する方途を明らかにすることを目指している。 この研究目的を達成するために、本年度は、主に二つの研究を行った。一つは、アメリカにおける言語科スタンダードを分析するものである。アメリカにおける学力保障の展開を明らかにする上で、スタンダードは見過ごすことができない重要な政策である。言語科スタンダードを分析することで、多様な文化的背景を持つ子どもに対する学力保障を実現するための教育内容と教育方法に関する到達点を明らかにすることができた。もう一つの研究は、多様な文化的背景を持つ子どもたちに対する言語教育において成果をあげている教材集『ヴォイシズ・リーディング』を検討するものである。この検討を通じて、共通に保障すべき学力の中身と、その学力を保障するための教材のあり方を明らかにすることができた。またこれらの研究は、日本の学習指導要領と国語科教科書のあり方を問い直す際の論点を提示するものであり、日本の教育政策を改善していく上でも社会的価値が高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ合衆国における学力保障に関わる教育政策を検討する上で、80年代以降に行われたスタンダード運動は看過することはできない。本年度は、研究計画通り、言語科スタンダードを分析し、その成果と課題を明らかにすることができたため、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、本研究で注目しているキャサリン・スノーによる理論と実践を、80年代以降の動向のなかで整理することによって現代的意味を明らかにしてきた。来年度は、60年代から80年代における言語教育に関わる教育政策と、教科教育研究団体が提起した言語教育に関わる理論と実践を明らかにする。このことによって、学力保障に注目が集まってきた60年代の議論を踏まえてスノーの独自性を明らかにすることができるとともに、戦後のアメリカ合衆国における言語教育の歴史的展開を描くことも可能となると考えられる。
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