研究課題
本研究の目的は、親密関係の性質の決定要因として、人間自身が集合的に作り上げている社会環境の性質に着目し、親密関係の性質が生じたメカニズムを理論的かつ実証的に検討することである。本年度は、申請書に記載した採用1年目に実施予定であった2つの研究と、2年目に実施予定であった研究の1つを行った。【研究1】恋愛関係の良好さに関連する概念(コミットメント、親密性、愛、情熱、満足、信頼、恋愛関係の良好さについて人々が持つ信念に社会によってどのような差異があるのかを検証した。日本人大学生が挙げた上記概念に〓る特徴を、先行研究(Kito, 2010)でカナダにおいて集められた特徴と比較したところ、「理解」「信頼」は日本・カナダともに、ほぼすべての概念に挙げられていた。これらの特徴は社会に関わらず、恋愛関係に重要だと人々が考えている特徴であることを示唆している。社会差に関しては、日本では「好意」「安心」をより多くの人が挙げており、カナダでは「誠実さ」「正直さ」をより多くの人が挙げていた。今後、これらの社会差が社会環境の性質の違いによって説明可能かを検討する。【研究2・3】愛の構成要素(コミットメント、親密性、情熱)に関する日加比較研究(研究2)を行い、構成要素の社会差が関係流動性(対人関係選択の自由度)によって説明可能であるかを検討した。予測と一貫して、日本人に比べ、カナダ人の方が、関係流動性とすべての構成要素が高いことが示された。さらに、親密性の社会差に関しては、関係流動性が有意に媒介していた。研究3で、親密性の尺度として幅広く利用されているIOS尺度を用いて同様の検討を行ったところ、友人関係におけるIOSの社会差についても、関係流動性が媒介していた。本研究は、親密性に関する社会差の起因が、関係流動性の異なる社会環境に対する人々の適応である可能性を実証的に示した初の研究である。
1: 当初の計画以上に進展している
質問紙による国際比較研究という同様の手法を用いた研究であったため、採用2年目に実施予定であった研究のうちの1つを今年度実施予定であった研究と同時に行った。
1.恋愛関係の良好さに関連する概念に関する人々の信念についての研究では、収集した回答を翻訳し、今後コーディングを行う。コーディングされたデータを用い、これらの特徴がそれぞれの概念にとって、どの程度中心的なものであるか、また、どのような特徴が恋愛関係の成功に重要であるのかについて、日本人およびカナダ人に評価してもらい、評価の社会差が関係流動性の差異によって説明可能か検討する。2.研究計画における理論では「関係流動性が高く、自由に関係相手を選択できる社会では、対人関係市場における競争が激しい。一方、関係流動性が低く、対人関係が固定的で関係相手を自由に選択できない社会では、競争が激しくない」という前提をおいていた。この前提の妥当性は自明ではないため、研究計画を変更して、関係流動性と対人関係市場の競争性との関連について、今後検討していく予定である。
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Journal of Social and Personal Relationships
巻: VOL. 30 ページ: 44-63
10.1177/0265407512451198